少し、距離が縮まったと思ったらこれだ。

「はあ……」

思わず頭を抱える。
やってしまった。
花蓮さんが今まで家族に恵まれていないのは、予め聞いていたのに。

目の前の、花蓮さんの作ってくださった料理を見る。
箸を伸ばし、口にする。

「……うまい」

こんなに美味しいのに、自分のためにしか作ったことがなかったのか。

「勿体無いな……」

正直、同情してしまう。
でもきっと、花蓮さんはそれを一番望んでいない。

「……どうしたものか」

どうすれば、ドアを開けてくれるのだろうか。




ふと、歌声が聞こえた。



--無理して笑わないでいいよ

--感情なんて 鬱陶しいけど

--気持ち押し込めないでいいよ

--きっと未来(明日)には 前を向けるから




「これ、さっき歌ってた……」

確か、パソコンで何かやって……。


この歌声、どこかで聴いたことがある。

でも思い出せない。



九十九花蓮。

貴方は何者なんだ?

その小さい背中で、何を背負っている?