「お前……どういうつもりだよ」
「……できると思ったのですが」

比井野と僕の目の前には、黒焦げのシチューがあった。
この異物がシチューと言っていいのかわからないが。

「もうお前座ってろ……」
「……すみません……出前でもとりますか……て、花蓮さん?」
「なんだよ、邪魔しないで座ってろって。あ、行く前にそこの棚から片栗粉取って」
「え、あ、はい。……て、花蓮さん手際よくないですか!?」

比井野から片栗粉を受け取り、削ぎ切りにした鳥むね肉と塩コショウと酒と片栗粉とチューブ入りのにんにくを袋に入れ漬け込む。

「手際いいかとか知らないけど、料理はわりとやったことあるから」
「……すごいですね」
「別に普通だろ、アンタは普通じゃないみたいだけどな」

そう言って笑えば、比井野は悔しそうな、複雑そうな顔をして謝った。

「すみません……でも、これから毎回作ってもらうのは気が引けますので……もしよければ、料理、教えてくれませんか」
「はあ? 教えるとか面倒……あ、じゃあさ」
「はい?」
「オーブン買ってよ。そしたら教えてもいいけど。料理の幅も広がるしさ」
「え」




出来上がった料理を並べ、食べはじめる。

「……! 美味しい、です」
「僕の料理が不味いわけないだろ」

ふふん、と得意気に言ってやれば、比井野は寂しそうに笑った。

「……なんだよ」
「いえ、ただ……こんなに美味しい料理を今まで食べれていた家族はさぞ幸せだったのでしょう、と」
「……家族、ねぇ……」

僕は箸を置いて、お茶を飲むとそのままペットボトルを持って立ち上がった。

「花蓮さん?」
「家族ってのがちゃんと居たんなら、僕はこんな無様な生き方してねーんだろうな」
「待って、」

かしゃん、と音を立てて、扉を閉めた。



胸が、苦しかった。


もう、こんなことで泣くはず、ないのに。
僕に家族が居たことなどない。
そう思おうって、決めたのに。

まだ、僕は


「期待、してたんだな……」


ああ、弱いな。