可哀想な子

祖母の通夜が終わった。
僕が引っ越してきてから、しばらくは八雲さん達が驚くほど病状が回復していた、らしい。
だが最近足取りが覚束なく、なんでもない段差で転けてしまうことが増え、先日、頭を打ち転倒した。
ペースメーカーに頼り動かしていた心臓に影響を及ぼし、そのまま、呆気なく、亡くなった。



「可哀想ねぇ」

「これからは差さえあっていこうね」


そう、何度も何度も、僕を哀れむように、祖母は言っていた。



「……やっぱりアンタも、僕を置いていくんだな」


だったらもう、誰も信じない。
誰も、いらない。



「荷物はこれで最後かい?」
「はい。すみません、手伝ってもらって……」
「これから花蓮がお世話になるんだ。これくらいさせてくれ」
「……俺に花蓮さんの世話役が務まるでしょうか」
「らしくないな。大丈夫だ、若者同士仲良くなれるさ」
「若者っていったって花蓮さんは十七で俺なんか二十七のおっさんですよ」
「なら俺はおじいさんだな!」
「そういうわけでは……!」


うるさい声が、聞こえた。


「(……八雲さん)」


俺達が支えるとか言っておいて、自分は僕と接することをしない。

つまり、そういうことだろ。


八雲さんも結局、僕みたいなお荷物相手にしないんだ。



「じゃあ後頼む」
「お疲れ様です」


車が発車する音がした。
八雲さんが帰ったのだろう。

そして、

「花蓮さん、いいですか?」

こんこん、と丁寧なノックが聞こえた。

音量を上げ、パソコンのデスクトップ画面に向き合う。

「花蓮さん? 花蓮さん居ますか? ……入りますよ」
「勝手に入んなオッサン」
「なっ、そっちが返事をしないから……! て、寒くないですか? ストーブ付けないと風邪引きますよ。……あれ、つかない……給油されてないじゃないですか! なんで誰にも言わないんですか!?」
「面倒だし。厚着してれば作業できる」

今の僕の格好は、裏地付きスウェットにトレーナーに厚手のパーカーにコート、そしてマフラー。
とても家に居る格好ではないだろう。

「……八雲さん達に遠慮しているんじゃないですよね?」
「……遠慮もなにも、信頼してないだけ」
「花蓮さん、あなた、」

比井野はそこまで言いかけると、はああと深くため息を吐いて、部屋を出ていった。
これで作業が続けられる。

書き出していたコード譜を見ながら、パソコンにコードを打ち込んでいく。