適当に生きて、適当にしたいことして、何故か評価されて、"できる人"と扱われて、けれど俺はみんなが思っているような人間じゃない。
何もできない子猫だ。
いや、子猫の方が毎日必死に遊んだりごはん食べたりしてる。えらい。
だから俺は、何もできない、もっと言えばなにもしたくない、生きる気力のない人間の形をした何かなのだ。

「けど生きてんじゃん」
「え」

今から五年ほど前。
俺がオカマだとか、おとこおんなだとか言われて思い詰めていた頃。
そいつは、俺の双子の弟の、念願の音楽仲間となったチビが、俺の弱音に対しそう言った。

「生きてるだけで充分偉いと思うけど」
「……そんなの、この世界にいる人全員じゃん」
「じゃ、僕は偉くないの?」
「そんなこと言ってないだろ、ていうかお前は楽器やってるし」

そいつが背負っているエレキギターを指差す。

「あんたも楽器できるんでしょ」
「できるっていうか……弾けるだけ」
「でもその指、多分皮膚が固くなってるよね」

目が見えるか見えないかくらいで切り揃えられた金髪。
その隙間から、血のような紅が俺の眼を捉えていた。

「この距離で見ただけで、わかるのか」
「うん。まあそんないつもわかるわけじゃないけど」

じゃあなんで、と言いかけたら、そいつは方向転換し、歩きながら言った。

「あんたがこの距離で見ただけでわかるくらい練習したからに決まってんじゃん」

このまま、あいつは行ってしまう。
弟に、取られてしまう。
男か女かもわからない。
けれど、性別なんてどうでもいい。
恋愛とかそんなん、興味ない。
俺はただ、

「なあ」
「なに」
「俺の友達になってみないか」

はじめての友達に、君を選びたい。