俺の口にしたそのタイトルを聞いて、九十九さんは一瞬驚いたような素振りを見せたあと、ギターを構え直した。

「いいよ、やろう。しのさん、リードわかる?」
「え、あ、おう。大丈夫! 任せろ!」
「じゃ、僕リズムとコーラスやるから」

チューニングして、音出しして、最初だけ合わせてテンポ確認して。

「ボーカル……俺でいいの?」
「不満? それとも……不安?」

じっ、と、心を覗かれるような感覚。

……九十九さん、"深海のumbrella"はプロで、俺達"うみうし。"はただのアマチュア。
それでも、俺は。

「俺の歌、聴いてほしい。俺の歌で、umbrellaさんと、umbrellaさんの曲演りたい」
「……OK。ろきさん、あなたのタイミングでカウントして」
「ああ」

umbrellaさんと、俺らが顔を見合わせる。

博貴が、ろきが、カウントして、umbrellaさんの力強いカッティングと俺の歌で曲が始まった。


--希望と共に歩んでいた

--いつも一緒で支え合って

--一歩進んで 振り返る

--そのときにはもう 消えていた



ドラムが入り、しののピックスクラッチ。
最後に俺のベースで音に厚みが加わり、曲が整っていく。



--タバコの煙 臭いなって笑って

--タバコの灰 何故か笑えない

--僕はもうとっくに灰になっていたかも

--なんて思ってしまったから



umbrellaさんと顔を合わせ、ハモる。



--ひとりの僕が消えたいと言った

--でも僕はやりたいこと 沢山あるから

--まだちょっと

--もうちょっとでいいから待ってくれと言った




あ、


「(笑った)」



演奏しているumbrellaさん……九十九さんは、今まで見たことないくらいとても楽しそうで。


「(俺、今、楽しいかな、楽しんでるかな)」


きっとわからないのは、夢が叶って興奮状態だからなんだと、思う。


だから。


「(多分、楽しい、のだろうな)」



--ひとりの僕が生きたいと言った

--でも僕はやりたいこと

--もう何にもないから

--ご自由にどうぞと言った