九十九さんの体重が、俺にかかる。

「(……軽い。やっぱり、女の子だ)」

紺色の短い髪は染められていたらしく、地毛の黒い髪が伸びてきている。
そんな紺色プリンのやわらかい髪を、くしゃりと撫でる。

「しぃの?」
「大丈夫、ここに居るから」
「……でも、しぃのは」

そうだ。俺達は、今日こそ、帰らなければならない。

「(けれど)」

単純なことじゃないか。

「九十九さんさ、俺らについてこない?」
「え」
「ゆづ!?」
「お前、なに、言って」
「いいじゃんか。丸一日九十九さんと居て思ったけど、九十九さん、音楽ができる環境と、一緒に居てくれる人が居れば多分どこでも平気だって。あ、いや、九十九さんが行きたくないなら無理に誘わないけどさ」

驚いて口を開ける九十九さんと、博貴と雅裕に向かって、俺は目尻を下げて言った。

「とりあえず、パン食べよう?」


九十九さんの家に入り、居間でパンを食べる。
めろんぱんくんは既に食事は済んでいる。

「で、どういうつもりだよ」
「……俺さ、思ったんだよ」

メロンパンを食べる九十九さんを見る。
その大きなパンを咥える小さな口から、俺の名前を呼んでいた。比井野さんの名前を呼んでいた。比井野さんと、キス、していた。

「九十九さんさ、居場所探してるでしょ?」

ぴくり、と九十九さんの眉が動く。

「……僕は、ここで、」
「本当にそれでいいの?」

じっ、と九十九さんを見つめる。
躊躇うような、少しだけ、怯えるような。
そんな眼で、俺のことを捉えていた。

「九十九さん、本当は横浜に戻りたいんじゃないの」
「っ!?」

ぽとり。
そんな音がした気がした。
九十九さんの手から、メロンパンが落ちていた。