可哀想な子

目が覚めて、スマートフォンで時間を確認すると十時近くになっていた。

寝すぎた。

「……めろんぱんの散歩行かなきゃ」

前は祖母が連れていっていたが、亡くなってからは僕の仕事になった。
比井野は僕が外に少しでも出てくれると嬉しがっていたか。

「あれ」

ベランダに、めろんぱんの姿は無かった。
そして気付いた。椎野達も居ないことに。

驚かない自分に、驚いた。


わかっていたことだ。
自分は、独りなんだって。

でも、それでも少しだけ

「さみしいなぁ……」

なあ、椎野。
僕と居たって楽しくなかっただろう?
そっちで、僕の大嫌いな横浜で、笑顔で居るのだろう?

なあ、椎野。

「僕の料理は、美味しかった?」

その声は、拾われることはなかった。


筈だった。

「九十九さん? 起きたんだ」

明るい、眩しい、太陽のような声。

「いゆさん……わっ!」

めろんぱんがペロペロと僕の頬を舐める。
ここにいるよ、と言ってくれているようだった。

「九十九さんおはよう! パン買ってきたから食べない? 朝ごはんまだっしょ?」

そうしのさんが言って、パン屋さんの袋を掲げる。

「あ、それ……」
「このお店知ってる? めろんぱんくんに着いてったら見つけてさ。散歩するとき犬は飼い主より後ろとかいうけどコイツ言うこと聞かねーよ」
「雅裕みたいな馬鹿には従いたくないんだろ」
「だからおめーは馬鹿しか言えないのかよ」
「……九十九さん?」
「えっどうし、おい馬鹿なにしたんだよ」
「俺じゃねーよ!」

頬に滴が滴るのが、わかる。
これは涙だ。

安心した、涙だ。

「帰ってきてくれてありがとう……」