「ですが俺は、支え方さえ、わからなかった。花蓮さんは、独りのままだ」

比井野さんはそう言って歯を食いしばった。

「比井野さん……」
「だからどうか、力を貸してくれませんか。みなさんなら、特に椎野さんなら、きっと花蓮さんの心を開いてくれる」

そう言われ、俺は正座したまま手を握りしめる。

「でも、俺、さっき泣かせちゃったし……無理ですよ……」
「ゆづ……」
「……では、帰るまでで良いです。試しに、花蓮さんのお側に居てくれませんか」

俺らが帰るのは、明日の午後四時。
それまでに空港に着かなければならない。
それまでに、九十九さんの心を開かすことができるだろうか。

「とりあえず、やってみようぜ、ゆづ」
「俺らも居るしさ。それに俺らなら音楽の話しもできるし」

なんとかなる。大丈夫。

「……そうだな。やってみよう」

そう、簡単に思っていた。




俺は一番に風呂に入れさせてもらった。
そして九十九さんの部屋を訪れた。

昨日と変わらない、小さな規則正しい寝息。

「……九十九さん」



「やだ、やめて、りょう……!」



りょう、とは一体、誰なのだろうか。

「(あんなに怯えるほどのことを、ソイツにされたんだな)」

怒りが沸いた。

「(さっき泣かせたのは俺だが、俺の好きな人にフラッシュバックするほどのトラウマを植え付けさせたやつ……絶対に許さねぇ)」



……ん?

俺の、好きな、人?



いや、俺はumbrellaさんが好きなだけだ。

こんな男みたいな人、
一昨日の夜に会ったばかりの人、
好きなはずがない。


「(それに、俺は、もう)」

恋愛なんて、しない。


そう、決めたんだ。