花蓮さんは、二ヶ月ほど前にこちらに越してきました。
元々この家は花蓮さんの祖母の家で、俺は幼い頃からそのおばあさまに良くしていただいておりました。
そんなおばあさまが亡くなったのは、先月のことです。
**
「比井野君、花蓮のことを、お願いしたい」
「……ですが俺は、花蓮さんのことをよく知りません」
そんな俺に、世話役が務まるのだろうか。
「そりゃそうだろう」
「え」
煙草を咥え、八雲さんが言った。
「最初から知っているなんてことないだろう。少しずつ、知ってくれればいい」
そう言って笑う八雲さんは、俺の家まで車を走らせた。
その道中で、八雲さんは懐かしそうに言うのだ。
「比井野がクソガキだった頃を思い出すよ。花蓮程じゃないがとんがっていたな」
「クソガキ、でしたか」
「ガキだよ、クソガキ。生意気だったなあ。警察の兄貴にも、ここらでは怒らせたらやばいって恐れられてた母さんにも、舐め腐った態度とって、喧嘩ばっかして。中坊のときだったか、大人五人相手に独りで突っ走ったりもしてたな」
「忘れてくださいよ」
「いや、忘れん。忘れちゃいけねぇ。そういうクソガキが居るから、大人は大人の務めを果たせる。大人だって最初は初心者なんだ。何度も機会がなけりゃ、いざってときに対応できねぇ」
「(いざってとき、か)」
夕焼けに染まる海を窓越しに、じっと眺めた。
「(……花蓮さんの、紅だ)」
あの紅が朽ちる時、俺は、そのいざというときの対応が、できるのだろうか。
「……まあそう重く考えんな。花蓮は生活力はあるみたいだ。そっと支えてくれれば、それでいい」
俺の家に着き、車を止めた八雲さんがシートベルトを外す。
俺は小さく、はいと返事をしたのだった。
元々この家は花蓮さんの祖母の家で、俺は幼い頃からそのおばあさまに良くしていただいておりました。
そんなおばあさまが亡くなったのは、先月のことです。
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「比井野君、花蓮のことを、お願いしたい」
「……ですが俺は、花蓮さんのことをよく知りません」
そんな俺に、世話役が務まるのだろうか。
「そりゃそうだろう」
「え」
煙草を咥え、八雲さんが言った。
「最初から知っているなんてことないだろう。少しずつ、知ってくれればいい」
そう言って笑う八雲さんは、俺の家まで車を走らせた。
その道中で、八雲さんは懐かしそうに言うのだ。
「比井野がクソガキだった頃を思い出すよ。花蓮程じゃないがとんがっていたな」
「クソガキ、でしたか」
「ガキだよ、クソガキ。生意気だったなあ。警察の兄貴にも、ここらでは怒らせたらやばいって恐れられてた母さんにも、舐め腐った態度とって、喧嘩ばっかして。中坊のときだったか、大人五人相手に独りで突っ走ったりもしてたな」
「忘れてくださいよ」
「いや、忘れん。忘れちゃいけねぇ。そういうクソガキが居るから、大人は大人の務めを果たせる。大人だって最初は初心者なんだ。何度も機会がなけりゃ、いざってときに対応できねぇ」
「(いざってとき、か)」
夕焼けに染まる海を窓越しに、じっと眺めた。
「(……花蓮さんの、紅だ)」
あの紅が朽ちる時、俺は、そのいざというときの対応が、できるのだろうか。
「……まあそう重く考えんな。花蓮は生活力はあるみたいだ。そっと支えてくれれば、それでいい」
俺の家に着き、車を止めた八雲さんがシートベルトを外す。
俺は小さく、はいと返事をしたのだった。

