「僕、なんでこんな、きつくしか当たれないんだろ。比井野は悪くないのに」

「しかも、しかもそのあと、言うんだよ」


「ぜってー俺の料理でうまいっていわせてやっからな」


「それ本当に比井野さん?」
「比井野なんだよ。うけるだろ? 馬鹿だよなー」

額に掌を被せて笑う九十九さんの、その小さい掌の隙間から、また、涙が流れた。

「そんなことしなくなって、食うし。けど、不味いって言ってやる。そんで、……そんで、仕方ないから教えてやるよって」

言いたいなあ。

弱々しく呟いたその言葉。
二人とも、不器用だなぁ。
ぶつかりあっちゃえばいいのに。
そんで泣いて、仲直りして、一緒に飯食うんだ。
そうすれば、全て丸く収まるのに。

「九十九さんさ、ぶっちゃけなんでもできるって言ったよね?」
「え、うん」
「ダウト」
「は?」
「だって俺、九十九さんにできないこと、見つけちゃった」

何を言い出すんだ、と九十九さんは俺を見る。
俺は得意気に言った。

「人付き合い苦手でしょ?」

九十九さんの瞳が揺れる。
大好きな、俺の大好きな、紅。

「今日さ、また泊めてくれない?」
「は?」
「博貴と雅裕も。そんで、比井野さんに料理教えてあげなよ。どんなもの出てきても俺らで食うからさ」

それを聞いて、九十九さんは一瞬ぽかーんとしたあと、笑い出した。

「なに、それ」
「それでもう大丈夫でしょ、完璧」
「はーっなに完璧って」
「ね、どう?」

九十九さんの頬が、嬉しそうに薄く赤く染まる。

「しょうがないから泊めてやる」




「けど救急車呼ばんからな」
「え、どれほどひどいの比井野さんの料理」