「ん、あれ、しのさんとろきさんは?」
「まだ外。俺寒くなっちゃって」
「あっそ」
会話終了。泣きたい。
でも、とても大事そうに俺のあげたぬいぐるみを抱き締めている。
「……隣、いい?」
「好きにすれば」
「ありがと」
隣に座り、窓越しに九十九島を眺める。
「九十九さん、あのさ」
「なに」
「ありがとう」
「……なんでそんな簡単にありがとうとか言うの」
「簡単になんて言ってないです。隣に座らせてくれてありがとう、カツアゲから助けてくれてありがとう、家に泊めてくれてありがとう、暖かいお風呂ありがとう、お布団ありがとう、朝食ありがとう、友達に連絡取らせてくれてありがとう、観光案内してくれてありがとう。全部、ちゃんとした感謝のありがとうだよ。少しは伝わってくれるとうれしいな」
笑いかければ、九十九さんは居心地が悪そうにため息を吐いた。
「……椎野って、すぐ騙されそう」
「うん……よく言われる」
「でもちょっと、羨ましい」
そう言って九十九さんはメンダコに顔を埋めた。
「前ね」
「はい」
「比井野が、シチュー作ってくれたの。真っ黒焦げのシチュー」
「比井野、さんが」
「すごい臭いで、換気とか鍋洗うのとか、勿論中身の処理とか大変だった。まあ全部比井野がやってたけど」
「(それ大変だったのは比井野さんでは)」
「でね、僕もう呆れちゃって。その日から一緒に住み始めたんだけどさ、コイツ家事できねーなーって思って」
「う、ん……」
「そんで僕、言ったんだ。もうお前座ってろって。そしたら比井野、申し訳なさそうな顔して、これから毎回作ってもらうのは気が引けるから、料理教えてくれませんかーって言うの」
「へえ」
「馬鹿じゃね、って思った。だってシチュー真っ黒なんだよ? もう向いてないんだからやんなきゃいいのにって。僕、ぶっちゃけなんでもできるから、昔からできないことやってるやつ見ると腹立ってしょうがないんだよね。できないことはできないんだから時間無駄にして頑張ってる風の自分を自分でよしよししてんじゃねーよって」
「そう」
「だから、一応教えてもいいけど、とは言ったけど教えたことなかったんだ。けどあいつ」
「……あいつ?」
「……比井野のやつさ、毎朝早く出勤して毎晩遅く帰ってくるくせに、ちょっとでも家に居れる時間があると一人で料理してんの」
「比井野さんが」
「そう。まあ僕は食材とか水道代無駄だなーって思いつつ、まあ勝手にすれば、って放置」
「放置」
「けど比井野、毎回作った料理で朝夕食済ませて、昼は弁当の具材にしてたんだよ。勿論ほとんど真っ黒。お弁当なんか詰め方すっげー雑だし」
比井野さんって以外と不器用で、しかも雑なんだ、と心でくすりと笑った。
「いつだったかな、お茶取りに台所行ったら、そんとき丁度比井野のやつ料理しててさ。うわ邪魔、焦げ臭、早く部屋戻ろーって思ってたんだ。そしたら比井野」
「比井野さんが?」
「比井野、がさ、言ったんだ」
「あー花蓮さんの料理また食いてーなー」
「え、あの比井野さん?」
「そう。マジ。そういう言い方してた。やっぱ警視総監の娘だった僕に遠慮して堅苦しい話し方だったんだなって。それにさ」
少し、九十九さんが顔を上げる。
笑おうとして失敗して苦笑いになって、それも失敗したような、顔をしていた。
「僕の料理、食べたいって思ってくれるやつ、はじめてだったんだ」
「九十九さ、」
ぽつりぽつりと、九十九さんは涙を流した。
「まだ外。俺寒くなっちゃって」
「あっそ」
会話終了。泣きたい。
でも、とても大事そうに俺のあげたぬいぐるみを抱き締めている。
「……隣、いい?」
「好きにすれば」
「ありがと」
隣に座り、窓越しに九十九島を眺める。
「九十九さん、あのさ」
「なに」
「ありがとう」
「……なんでそんな簡単にありがとうとか言うの」
「簡単になんて言ってないです。隣に座らせてくれてありがとう、カツアゲから助けてくれてありがとう、家に泊めてくれてありがとう、暖かいお風呂ありがとう、お布団ありがとう、朝食ありがとう、友達に連絡取らせてくれてありがとう、観光案内してくれてありがとう。全部、ちゃんとした感謝のありがとうだよ。少しは伝わってくれるとうれしいな」
笑いかければ、九十九さんは居心地が悪そうにため息を吐いた。
「……椎野って、すぐ騙されそう」
「うん……よく言われる」
「でもちょっと、羨ましい」
そう言って九十九さんはメンダコに顔を埋めた。
「前ね」
「はい」
「比井野が、シチュー作ってくれたの。真っ黒焦げのシチュー」
「比井野、さんが」
「すごい臭いで、換気とか鍋洗うのとか、勿論中身の処理とか大変だった。まあ全部比井野がやってたけど」
「(それ大変だったのは比井野さんでは)」
「でね、僕もう呆れちゃって。その日から一緒に住み始めたんだけどさ、コイツ家事できねーなーって思って」
「う、ん……」
「そんで僕、言ったんだ。もうお前座ってろって。そしたら比井野、申し訳なさそうな顔して、これから毎回作ってもらうのは気が引けるから、料理教えてくれませんかーって言うの」
「へえ」
「馬鹿じゃね、って思った。だってシチュー真っ黒なんだよ? もう向いてないんだからやんなきゃいいのにって。僕、ぶっちゃけなんでもできるから、昔からできないことやってるやつ見ると腹立ってしょうがないんだよね。できないことはできないんだから時間無駄にして頑張ってる風の自分を自分でよしよししてんじゃねーよって」
「そう」
「だから、一応教えてもいいけど、とは言ったけど教えたことなかったんだ。けどあいつ」
「……あいつ?」
「……比井野のやつさ、毎朝早く出勤して毎晩遅く帰ってくるくせに、ちょっとでも家に居れる時間があると一人で料理してんの」
「比井野さんが」
「そう。まあ僕は食材とか水道代無駄だなーって思いつつ、まあ勝手にすれば、って放置」
「放置」
「けど比井野、毎回作った料理で朝夕食済ませて、昼は弁当の具材にしてたんだよ。勿論ほとんど真っ黒。お弁当なんか詰め方すっげー雑だし」
比井野さんって以外と不器用で、しかも雑なんだ、と心でくすりと笑った。
「いつだったかな、お茶取りに台所行ったら、そんとき丁度比井野のやつ料理しててさ。うわ邪魔、焦げ臭、早く部屋戻ろーって思ってたんだ。そしたら比井野」
「比井野さんが?」
「比井野、がさ、言ったんだ」
「あー花蓮さんの料理また食いてーなー」
「え、あの比井野さん?」
「そう。マジ。そういう言い方してた。やっぱ警視総監の娘だった僕に遠慮して堅苦しい話し方だったんだなって。それにさ」
少し、九十九さんが顔を上げる。
笑おうとして失敗して苦笑いになって、それも失敗したような、顔をしていた。
「僕の料理、食べたいって思ってくれるやつ、はじめてだったんだ」
「九十九さ、」
ぽつりぽつりと、九十九さんは涙を流した。

