遊覧船に乗り、この旅行の目当てだった九十九島を、しかも九十九島の夕焼けを、この眼で観れた。

「よかったなゆづ、お前の初めてのわがまま達成だ」
「バス会社にスマホと財布も届いてたってさ」

雅裕が俺に肩を組んで笑い、博貴が自分のスマホでバス会社に連絡を取ってくれて、俺の救世主となったスマホをひらひらと振った。

「あー……よかった」
「これで彼女が居ればなぁ」
「親友が居て、趣味が充実してて、そんで彼女もいたら最高だな」
「馬鹿雅裕は単位もしっかり取れ」
「横浜戻ったら気合いいれまーす」
「お前らなあ……っはは」
「あ、ゆづ笑った」
「やっと笑った。ラブコールが通じてなくてしかも年上のイケメン警察と好きな人が一つ屋根の下だと知って落ち込んでいたゆづが笑った」
「ラブコールなんか送った覚えないわ」
「いや犬かってほど九十九さんに尻尾振ってたから」

だからめろんぱんくんに馬鹿にされたような視線向けられたのか……?

「って、問題は警察のやつだよ! 比井野さんいい人そうだったけど……ほんの少し話しただけだから判断できねーし……」
「それとなく九十九さんに聞き込めば?」
「あのさ、これ、言っちゃだめかもしれねーけどさ」
「なんだよ怖いな」

申し訳なさげに、雅裕が言う。

「九十九さんは心配だけどさ、俺ら所詮その警察より他人だろ? 俺らがなんかできんのかな」

一回、海を見る。
数秒考えて、また二人に向き直った。

「思ったよ。俺は所詮ただのファンで、たまたま拾われて世話になっただけだって。でも、やっぱり放っておけない。なんかあってからじゃ、」



にーちゃん、とうさん、おれがついてっからさ、なんとかなるよ!

大丈夫!

三人でいれば、なんとか



……なんで、なんでだよ、

信じてたのは、俺だけだったのかよ……!



「三人でいればなんとかなる、だろ」

いつの間にか俯いてしまっていた顔を、ばっと上げる。
博貴と、雅裕が、他でもない俺のバンドメンバーが、親友が、笑顔でそこにいた。

「……だな。なんとかしてやろう」
「打倒警察!」
「うわー下手したら捕まるわ」