「おーい席取っといたぞ」
「二人ともありがと! 遅くなってごめん」
「もうショー始まるって」
「まあまあ秀才くん、仲睦まじき夫婦の時間を優先させてあげましょうよ」
「おいこら雅裕お前腕相撲に勝ったからっていい気になってんじゃねーぞ」
「こんなとこでそんなおふざけやめろよ、俺と九十九さん付き合ってもいないんだし」
「え、嘘。嘘嘘」
「お年頃の男女が一晩同じ屋根の下で過ごしたのに?」
「九十九さんまだ十七だぞそういうのやめろってば」
「でも好き同士なんだからいいだろ?」
「しのさんろきさんなに言ってるの、椎野が僕のことすきとかありえないって」
はは、と笑う九十九さんの声は、イルカショー開始のイルカトレーナーのお姉さんの声にかき消されることなどなく、俺の脳内に残り続けた。
**
水族館から出たところで、あの一言からずっと黙っている俺に哀れんでか博貴と雅裕が声をかけてきた。
「いや、あれは九十九さんが鈍すぎでしょ」
「もしやギャグ……?」
「いや九十九さんギャグ言うタイプな訳ないだろ、馬鹿雅裕」
「……九十九さんは、鈍いというか他人からの感情を受け入れられないんじゃないかな」
楽しそうに俺らの数歩先を歩く九十九さんを見ながら呟くと、二人は戸惑いの声を出した。
「つまり、どういうこと?」
「……あまり勝手に人の事情話したくないけど、俺だけじゃ抱えきれないから相談させてくれ」
「いいけど」
「うん」
「……九十九さんな、叔父の仕事仲間と暮らしてんだって」
「は? どういう家庭事情?」
「詳しくは聞いてない。けど、高校も退学してるって言ってた」
それを聞いた二人は顔を歪めた。
「なんか、余程の事情があんだろな」
「だな……ていうか、まだ、十七だろ。何があったんだよ……」
水族館でセットで買った遊覧船のチケットを手元に用意し、乗船できる時間まで待つ。
そこでふと、とんでもないことに気が付いた。
「おいまて、やばくないか」
「おう、どうしたゆづ」
「九十九さんと一緒に住んでるっていう叔父さんの仕事仲間って人と会ったとき、俺は九十九さんを九十九くんだと思っていたわけだ。だが九十九くんは九十九さんだったわけで、となると比井野さんは他人、それも未成年の女の子と二人きりで住んでいるってことになるわけで」
「お、おう……!? やばいな。で、ふーいずひいのサン」
「比井野さんは警察、言っておくが、男だ」
「「はああああ!?」」
「二人ともありがと! 遅くなってごめん」
「もうショー始まるって」
「まあまあ秀才くん、仲睦まじき夫婦の時間を優先させてあげましょうよ」
「おいこら雅裕お前腕相撲に勝ったからっていい気になってんじゃねーぞ」
「こんなとこでそんなおふざけやめろよ、俺と九十九さん付き合ってもいないんだし」
「え、嘘。嘘嘘」
「お年頃の男女が一晩同じ屋根の下で過ごしたのに?」
「九十九さんまだ十七だぞそういうのやめろってば」
「でも好き同士なんだからいいだろ?」
「しのさんろきさんなに言ってるの、椎野が僕のことすきとかありえないって」
はは、と笑う九十九さんの声は、イルカショー開始のイルカトレーナーのお姉さんの声にかき消されることなどなく、俺の脳内に残り続けた。
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水族館から出たところで、あの一言からずっと黙っている俺に哀れんでか博貴と雅裕が声をかけてきた。
「いや、あれは九十九さんが鈍すぎでしょ」
「もしやギャグ……?」
「いや九十九さんギャグ言うタイプな訳ないだろ、馬鹿雅裕」
「……九十九さんは、鈍いというか他人からの感情を受け入れられないんじゃないかな」
楽しそうに俺らの数歩先を歩く九十九さんを見ながら呟くと、二人は戸惑いの声を出した。
「つまり、どういうこと?」
「……あまり勝手に人の事情話したくないけど、俺だけじゃ抱えきれないから相談させてくれ」
「いいけど」
「うん」
「……九十九さんな、叔父の仕事仲間と暮らしてんだって」
「は? どういう家庭事情?」
「詳しくは聞いてない。けど、高校も退学してるって言ってた」
それを聞いた二人は顔を歪めた。
「なんか、余程の事情があんだろな」
「だな……ていうか、まだ、十七だろ。何があったんだよ……」
水族館でセットで買った遊覧船のチケットを手元に用意し、乗船できる時間まで待つ。
そこでふと、とんでもないことに気が付いた。
「おいまて、やばくないか」
「おう、どうしたゆづ」
「九十九さんと一緒に住んでるっていう叔父さんの仕事仲間って人と会ったとき、俺は九十九さんを九十九くんだと思っていたわけだ。だが九十九くんは九十九さんだったわけで、となると比井野さんは他人、それも未成年の女の子と二人きりで住んでいるってことになるわけで」
「お、おう……!? やばいな。で、ふーいずひいのサン」
「比井野さんは警察、言っておくが、男だ」
「「はああああ!?」」

