「あれ、なんか買ったの、ショー見るのに邪魔じゃない?」
「あ……邪魔に、なっちゃうか……」

思わず、ラスいちだったのもあって買ってしまった。
別れるときに渡そう。
そう思い、渡そうとした手を引っ込める。

「なに買ったん?」
「え、あ……これ……」
「え……僕が新曲ミリオン行ったら買うって願掛けしてたメンダコ……」
「あ……まじですか……」

やってしまった。
喜ばせようとしたのに、悲しませてしまった。

「でも、メンダコかわいいもんね、椎野も欲しいよね……」
「違うって! その、これは九十九くんにあげようと……て、ごめん、くんって言った」

九十九さんは中性って言ってたから悩んだけど、それでもやはり女の子なのだからくんはやめよう、と勝手に決めたのに間違えてしまった。
なんだか失敗ばかりだ。

「別にいいのに……あ、じゃあ、呼び間違えたの許すからそのメンダコちょうだい」
「え、許さなくても最初からあげるつもりで」
「くれるの、くれないの」
「あげます」
「ん。仕方ないからもらってあげる」

袋から取り出し、耳をぴょこぴょこさせたり抱き締めたり、一頻り撫でまわすと、九十九さんは大事そうにメンダコを袋に戻して俺の手を引っ張った。

「(あれ、そういやさっきから普通に手触れられてる)」

前は服の袖引っ張ってたのに。

「ショープール行くよ」
「は、はい」

微妙な距離で、手を繋いで、二人で水族館を歩く。
端から見れば、俺達は一体、どんな関係に見える?

身長百五十ほどの、まるで男の子のような女の子と、身長百八十一センチの未だにたまに女性に間違われる俺。
髪の色も、雰囲気も全く違う。

「(……カップルには、見えないよな)」
「椎野? 難しい顔してどうした?」
「イケメンに産まれたかった」
「どうした急に。心はイケメンなんだからいいだろ」
「え、うれし……ってそれ顔はイケメンじゃないって言ってます!?」
「顔は美人系だな」
「え……すき」
「うるさい」