「へー、アンタ僕のこと知ってたんだ」
「知ってるなんてレベルじゃ……!! もう大ファンです!!! アマチュア時代からのCDも勿論全部持ってますし鍵垢で全部の呟きいいねしてるし過去やっていた生放送もリアタイで見ていたしそのときumbrellaさんの使ってたヘッドフォンの色ちがい愛用してますし!」
「お、おう……」
「前上がった新曲、空の聲とか弱々しいのに必死に前向いて進もうとしているところが本当涙腺崩壊って感じで」
「も……やだ……」
「ん"ん"っ」

思わずノンブレスで語ってしまった。
しかしあのumbrellaさんの赤面を拝めたのでもう思い残したことはない。

「……なんだよ、僕のこと好きすぎかよ」
「だいすきっす」
「うわ恥ず。もういいからさっさとログインして連絡とって帰れ」
「え、観光してない」
「帰れ」

推しに帰れと言われメンタル砕けそうです。
泣きながら自分のアカウントにログインすると、博貴と雅裕からの通知がすごかった。

「うわ……めっちゃ心配してる……」
「ふん、よかったじゃん」


しばらくスマートフォンを借りてやり取りし、九十九さんのこの家まで来てもらうことになった。

「ありがとうございます」
「スマホと財布見つかるといいな」
「もう本当……」
「……ん?」

九十九さんが戸惑いを見せる。
なにか変なとこタップしてしまっていただろうか。

「あの、九十九さん?」
「椎野、お前、このアカウント……」
「え? あぁ、一応バンドやってて……うみうし。なんて変なバンド名ですけどそれ馬鹿なギターのやつがつけたんで……」
「このバンド名しのさんが付けたの!?」
「うんそう……え、しののこと、なんで知って……」
「僕うみうし。の、いゆさんの大ファンなの!!」
「え」
「嘘……信じられない……椎野が、いゆさんだったなんて……」
「嘘、だろ……」