「九十九さん……」
「じゃ、探すか」
「え、な、なにを?」

涙も出さずに九十九さんはスマートフォンを手に取る。

いや、きっと九十九さんの涙は、
とうに枯れてしまったのだ。


「ほれ」
「うわ、文明の機器を投げないでください!」
「はいはい。さっさと自分のアカウントにログインして一緒に来てるっつーおともだちに連絡するんだね」
「あ、そういう……失礼します」

呟きアプリのログイン画面を開こうと、画面をタップする。

「……ん?」

ふと、見馴れたアイコンに気付いてしまった。

寝そべるゴールデンレトリバーの横に、アコースティックギター。

大好きな、umbrellaさんのアイコン。


「……え、あの、九十九さん?」
「なに」
「九十九さんって、アコギも持ってます?」
「持ってるけど。今調整出してる」
「ゴールデンレトリバー飼ってます?」
「ん。こっち」

服の袖を引っ張られ、着いていく。

服の袖引っ張るとかかわいいなと思っていると、九十九さんが和室の襖を開けた。
その部屋から見える庭には、SNSで何度も見て鍵垢でいいねしまくっているゴールデンレトリバー、umbrellaさんのめろんぱんくんがいた。

「嘘……九十九さんが、umbrellaさん……!?」

馬鹿にしたように舌を出してめろんぱんくんが俺を見ていた。