どうやら、僕は可哀想な子らしい。

「(そんなの、クソどうでもいいけれど)」

ただ少し、うるさい。



お気に入りのヘッドフォンで好きな音楽を聞きながら、今日は久々に外に出た。

新しい家にやっと落ち着いたのは、つい最近のこと。

でもまた、騒がしくなった。


目の前に広がるのは、朝日の眩しい九十九の島の浮かぶ海。

海は好きだ。前居た場所より圧倒的に田舎なここでは人は少なくて、楽だった。



ふと、肩を叩かれた。


「なに、比井野」


ヘッドフォンはそのまま。
振り向きもしない。
でも、誰なのかはわかる。


「おい、勝手に外すな」
「すまない、でも、こんなときに勝手に家を出ないでください」

ため息を吐いて振り向けば、僕のヘッドフォンを持った比井野が居た。
海を照らしていた朝日が、今度は比井野の銀髪を照らしていた。

「僕はあの人と関係ないだろ」
「関係なくないです、花蓮さんは先生のお孫さんなんですから」
「……書類上、他人でしょうが」

そう言ってヘッドフォンを奪い取れば、比井野は申し訳なさそうにですが、と続けた。

「ですが、俺は花蓮さんを守るとお二人に誓っているのです」
「誓ってる、ねぇ」

じ、と比井野の眼を見れば、その蒼い瞳が揺れた。

「まるでお人形さんみたいだね、巡査長さん? アンタの意思はどこにあんのさ」

立ち上がり、服に付いた砂を落とす。

「僕は、誰にも守られるつもりはない」
「花蓮さ、」

ヘッドフォンを着けて、音量をマックスにする。

「(やっぱりこれが一番、心地いい)」

会ったことも、話したこともない、自主製作のMVとSNSに投稿される写真でしか見たことのない。

それでも、歌声、ベースの深い音色、あんなに僕の好みなのは、あの人だけだ。


「(いつか、楽曲提供できないかな)」


そんな夢みたいな日、訪れるわけないのだけれど。