「わ……大きい……え、あれ池? 木もいっぱい……庭広……」
「しぃの、こっち」
「あ、うん」

九十九君の家に、取り敢えず一晩泊まらせていただくことになった。
なんだか複雑そうな親御さんは、外では暗くてわからなかったけど九十九君と全く似ていない。

「俺は布団を用意します。椎野君は取り敢えず居間に」
「こっち」
「は、はい」

九十九君に案内されたのは、一番奥の部屋だった。
ドアが開いて、中に入ると、そこは俺の部屋を少しパワーアップさせたような、宇宙空間だった。

「うわ、スッゲー機材! このMIDI鍵盤いくつだ……? うわっ、ジャズマスターだ! やっぱカッケー!! え、これスターリンかと思ったらスティングレイだ、五弦ベースもあるし……しかもこのケース……チェロ!? 金持ちか」
「しぃの」
「あっごめん! つい興奮しちゃって……」

楽器見ると興奮してしまうのは悪い癖だ。
だがこんなに良い楽器や機材を持っているなんて、何者なんだ。

「しぃのも、楽器やるんでしょ?」
「え、あ、うん。ベースやってる……」

じっと見つめられる。が、見ているのは俺じゃなく楽器だろう。

「えっと……見る? 君のみたいに高いやつじゃないけど」
「見る」

即答だった。

「あはは、楽器、好きなんだね」
「ん。すき」

ケースからベースを出し、いつの間にかベッドに座っていた九十九君に渡す。

「……赤、かっこいい」
「でしょ? 俺の好きなアーティストの眼の色と同じで……」

あ、れ
九十九君の目、は、

「しぃの?」

そんなわけ、ないよな。
あのumbrellaさんが、俺より年下の筈が、中学生の筈がない。