「ん? 九十九島? ってどこ?」
「長崎だな。佐世保市。同じ市内にはハウステンボスがある」
「あ! 知ってる! 海賊王目指す麦わら帽子かぶったゴム人間の船に乗れんだろ!?」
「なに? ゆづここ行きたいの?」
「俺行きたい!」
「雅裕が行きたいのはハウステンボスだろ」

九十九島。
umbrellaさんが、最近よく写真を載せている。
朝焼けだったり、夕焼けだったり、大雨だったり。
きっとどれも、umbrellaさんには似合うのだろうな。

「(でもやっぱり、あの眼と同じ紅が、一番似合う)」


見てみたい。
写真でしか見たことのない、umbrellaさんの見る九十九島の絶景。
そしてそこで、その九十九島で、umbrellaさんと同じ燃えるような紅を見たい。


「なあ、雅裕、博貴」
「ん?」
「どうした?」


「冬休み、予定空けてくれないか」




**



「やばい……迷った……」

初めて訪れた福岡空港で博多ラーメン食べて佐世保行きの高速バスまでの時間を潰し、なんで持ってきたのかわからない楽器抱えて狭いバスの座席でしばらくumbrellaさんと俺らのバンドの曲ヘビロテして窓の外眺めて、二時間くらいで佐世保着いて、さあタクシー乗ってホテル行こう、ってところで、博貴と雅裕が居ないことに気がついた。

スマホで連絡しよう、と探せばいつも入れているポケットに無い。

そんな筈はない、だってバスの中で音楽聴いて……


「あ」


座席に……忘れてきた。


急いでタクシー乗り場からバス停まで戻り、スマホの忘れ物がないか訪ねる。
が。


「届いて……ない……?」


終わった、これじゃ二人に連絡とれない。メッセージアプリ主流のこのご時世に、バンド仲間の電話番号なんて知っている筈がない。

「けど、ホテルまで行けば……!」

タクシー乗り場まで戻り、財布を出してタクシーを待つ。
タクシーを待……財布を出……
財布……


「財布がない……」


終わった……。



天国の父さん、兄ちゃん、俺、どうすればいい?



「あぁ寒い……心が寒い……うわ我ながらクサい……」

こちらをチラチラと見るのは、明らかに日本人ではない。
差別するわけではないが外国人こわい……ジャパニーズピーポー助けて……。



「Hey, what are you up to?」
「How much money do you have?」

「え」

俺を見ていた外国人三人組に話しかけられた。
言われたことはわかる、これでも高校時代学年トップだった。
けど、


「(これどう答えてもアウトだろ……!!)」

初めての旅行でこんな目に遭うとは思わなかった。

本当に終わった。


「俺の人生なんだったんだろ……」

呟いたその瞬間、光が差し込んだ。



「立って、走れ」