「んじゃ明日の講義でなー」
「雅裕レポートやれよー」
「博貴それ禁句!!」
「由弦もこの馬鹿になんとか言ってやってくれよ」
「由弦?」
「おいゆーづーる?」

ヘッドフォンを取られて、驚いて直ぐ様顔を上げた。

「な、なに?」
「この馬鹿にレポートちゃんとやるよう言えって話」
「馬鹿言うな!」
「高校生時代毎年留年騒動起こしてたのはどちら様ですかぁー?」
「それを毎年助けてたのは博貴と俺だったな」
「その説は大変お世話になりました」

ギターを背負ったまま雅裕は土下座した。
よく見る光景である。

「早く帰ってレポートしなよ。それで、無事提出出来たら今日の打ち上げしよう?」
「だな」
「次こそ由弦より良い評価取ってやる……!」
「博貴の頭じゃ無理だろ」
「テメェの鳥頭よかよっぽど賢いわ」
「いたいたいすんません!!」

雅裕の頭をぐりぐりと締める博貴。
やっぱり、幼馴染みは仲良いなあ、とぼんやり見る。

俺ら三人は、高校生の頃から外でバンド活動している。
最近はなんとかファンが増え始め、軌道に乗り始めたところだ。

ギターの春原雅裕と、ドラムの椹木博貴は保育園時代からの幼馴染みらしく、非常に息が合っている。

俺は高校一年のときに二人と出会い、バンドを始めた。


「じゃーなー」
「由弦顔バレすんなよー」
「わかってるって。明日な」

ベースのケースにエフェクターケースをくくりつけているキャリーを引っ張って、ライブハウスを後にする。


「(楽しかったなあ)」

今日は、初のワンマンだった。
結果は、大成功と言えるだろう。
それほど大きなハコじゃなかったとはいえ、お客さんでいっぱいにできた。


こんな俺でも、見てくれる人が居る。

最近やっと、少し、ほんの少しだけど、自分に自信がついた。
それは、バンド仲間の博貴と雅裕と、そして。



耳に馴染む、大好きな、この歌声。
今や顔すら出さなくなってしまった、俺を暗闇から救ってくれた、彼。





深海のumbrella