騙し愛

母親の言葉に蕾は怒りではなく次は呆れがこみ上げてくる。またその話、とため息をついた。

智くん、というのは蕾の幼なじみだ。前田智則(まえだとものり)と言う。智則は地元で就職したと聞いていた。最近、母親はその名前を出してくる。

「智くんはね、地元でバリバリ働いて活躍しているの。あなたは仕事をやめてこっちに帰ってくるべきだわ。智くんの立派な姿を見たら一目ぼれするわよ」

「お母さん、私は仕事をやめるつもりはないわ。今の仕事、とっても楽しいの。社長はいい人だし、先輩も親切だし、同僚ともうまくやれて、後輩もいて……。重要な仕事を任されたりもする立場だから、やめたくない」

「そんな……!あなた、何てことを言うの!智くんとあなたは運命の赤い糸で結ばれているのよ!幼稚園から高校まで一緒だったじゃない!!」

「お母さん、運命の赤い糸ってどこの映画の話よ笑。智則と幼稚園から一緒なのは、そっちが田舎だから幼稚園も高校も一つずつしかないからでしょ!」