「あの・・大丈夫・・。」

無言で小指を抑える彼に恐る恐る話かけるとぎっと思いきり睨まれた。

思わず目をそらす。
話しかけたはいいもののアイプチをしていないので目をまっすぐ見れない。

いや、まあ、そういう反応になりますよね・・。
そうなりますよね・・はい。
でも、あんなにびっくりされると思わなかったんだもん・・。

「・・・なんか・・いきなり話しかけて・・すみません・・。」

「なんかその謝り方腹立つ・・・。
・・・何、何なの急に、喧嘩売ってんのお前・・。」

「いや・・ちょっと折り入って頼みがありまして・・。」

「やだ。」

ぐっ・・。即答・・。
いや、まあこれは想定内・・。

こちらを見もせずに美月君が立ち上がり冷蔵庫に向かう。

でも、これぐらいで引き下がる私じゃない・・!
今日の私は一味違う。
ラブホから逃げ帰ってきたあの時の自分から変わらなければ。

「私の顔を・・一重の状態のすっぴんを毎日数分でいいんでみてください!!」

土下座とまではいかないが座ったまま冷蔵庫の前で牛乳をとりだした彼に頭をさげた。

みるみるうちに美月くんの顔が怪訝な表情になっていく。

そこからはもう、ひたすら押し問答。

「やだ。意味わかんね。やだ。」

「ほんと数分でいいんで!!」

「やだ」

「ただ数分私の顔みるだけですから!」

「やだ」

こちらを一瞥もせずに即答で、しかも食い気味に断り続ける美月君。
延々と続くやだの攻防。
これも想定内。

こうなったら奥の手を使うしかない。

「ファイミューしますから!!」

「・・・」

私の一言に彼の動作がはじめて止まった。

「乗った。」
美月君が私の発言を射止めるかのように強くそう言って私を睨む。

ここから私の己との闘いに美月君という最恐のコーチが付いたのであった・・。