真っ赤なキャリーバッグを引きながら、ある人物に電話をかける。


『...Hello(もしもし)』


思わずぞくりとしてしまう低音ボイス。誰をも魅了するその声だが、今は怒りと心配、焦りがこもっている事に、深冬は気づいた。


「Me,(私、) Miyu『Miyuki!?』......Yes. I'm sorry to leave.(そうよ。いきなり出ていってごめんなさい)」

『... I'm anxious about it.(…心配したんだぞ)』

「I'm really sorry.(本当にごめんなさい。)」

『...No more.Where are you now?(…もういいよ。で、今どこなんだい?)』

「Japan.On my way home(日本よ。実家に帰る途中なの)」

『Why, to Japan again...(何でまた日本に…)』

「My sister called me.Sorry, but I'm in Japan for some time.(妹から電話があってね。ごめんけど、しばらく日本にいるわ)」

『... How long?(……どのくらい?)』

「I don't know.But maybe it will be long(分からない。でも、恐らく長くなるかも)」

『……』

「Don't worry.Because I return as soon as possible.(心配しないで。なるべく早く帰るから)」

『... Call me(…電話するよ)』

「Yes, please.... Well, again(ええ、お願い。……じゃあ、また)」

『Be careful(気をつけて)』

「Yes(ええ)」


電話を切る。ちょうど持ち物検査の順番が回ってきた。深雪はオフショルダーを籠に乗せ、男性に渡す。


「この中に飲み物や刃物など御座いましたら、今のうちにお取りください」

「大丈夫です」


男の人は、何やらチケットのようなものを取り出すと、それを籠の上に載せた。


順調にことが進み、検査を終えたキャリーバッグも回収した深雪は、再びスマホを取り出し電話をかける。


『はい』

「あ、英司くん?私、深雪よ。今日本にいるんだけど」

『深冬さん?いつの間に日本に?』

「今さっき着いたところなの。ところで、早速で悪いけど迎えに来てくれない?」

『……、分かりました。すぐに迎えをよこしますので』

「あら。ちゃんと英司くんも来てよ?久々の再開なんだから」

『僕は仕事がありますので。では。』

「え、ちょっ……。もうっ、すぐ切っちゃうなんてつれないわね」


サングラスを外し、ネックに引っ掛ける。


「ふぅ、やっぱり日本の夏は暑いわね」


さて、あの子達は驚いてくれるかしら?と呟く声は、人々の話し声にかき消されて行った。