『なあ、深冬』

『なあに?秋』


俯く幼い秋に、深冬は軽く首を傾げる。


『……俺、強くなりたい』

『……』

『強くなって、春菜と夏貴を守る』


まだ7歳というのに、その目には強い意志が込められていた。
それは、今日のお昼頃起きた事件のせいで。


『ごめん、深冬。俺が弱いから、深冬が……』

『いいの。だって、私皆のお姉さんだもん』

『……』

『秋が春菜と夏貴を守るなら、私は秋を守る。秋は私の大事な弟だもん』

『深冬…』

『私は、女だから力じゃ負けちゃうけど、それ以外の事で皆を守るよ』

『…ん。じゃあ、俺は力で誰にも負けない。だから』

『うん!それ以外の事で、私が絶対助けるから。約束ね!』

『うん!』


春菜と夏貴が攫われる所を目の当たりにし、何も出来なかったと不甲斐ない自分に悲しくなる秋は、その夜誓を立てた。
それは、高校生となっても守り続けられている二人の誓い。

そっと、小指を絡ませる。






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「ん、……っふ…ぁ……」

まだ眠気が抜けてないためか、漏れ出てくる欠伸を抑えながら喉元に少し力を入れた。
涙を拭いながら、ぼうっと窓の外を眺める。
次々と景色が変わるなか、アナウンスが流れてくる。


【皆様、ただいま○○空港に着陸いたしました。ただいまの時刻は午前8時35分でございます。

安全のため、ベルト着用サインが消えるまでお座りのままお待ちください。

上の棚をお開けになる際は、手荷物が滑り出るおそれがありますので十分お気をつけください。ただいまから、全ての電子機器をご利用いただけます。

皆様、今日も○○航空をご利用いただきまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗を、お待ちしております】


飛行機を降りた彼女、御堂 深冬は思わず口角を上げる。


「二年ぶり…かしらね」


先程からバイブの止まらないスマホを取り出し通知を見れば、見なければよかったと頬を引き攣らせる。


「着信26件にメールが59件……ね。………どうしようかしら…あ、」


画面の上に、たった今届いたメールの内容が表示された。通知オフにしておけば良かった、と思いスライドして消そうと思った瞬間、ある言葉が目に入る。


【Where are you now?He is looking for you.Come back early.(今どこにいる?彼が君を探してる。早く帰っておいで)】


引き続き、上書きするようにまた別のメッセージが表示される。


【好久不见啊,好吗?嘛,我不是说那些的时候,不过。你不在了的事,国王的心情不好辛苦。什么时候回来?(久しぶりだね、元気してた?ま、こっちはそれどころじゃないけど。君がいなくなった事で、王様のご機嫌が悪く大変だ。いつ帰ってくる?)】


「………どうしましょう」


やっぱり黙っていなくなるのはダメだったかしら、と呟く。


「……まずは電話かしら」