人魚のお姫様

考えてはダメだ、とエラはディランから顔をそらす。そうしている間に、ダンスの勝負が始まった。

いつからいたのか、オーケストラが優雅なワルツを演奏し始める。それに合わせてディランと最初に踊る王女が踊り始めた。

美しい動きに、エラは胸を高鳴らせる。あんなダンスを踊ったことはない。まるで舞台を見ているかのようだ。

王女はとても幸せそうに微笑み、ディランを見つめている。美しいドレスもよく似合い、お似合いだ。

ガシャン、と音がして踊っていた王女と見ていたエラたちは音のした方を振り向く。使用人が転んでしまったようだ。グラスの破片が飛び散っている。

「嫌ですわ。こんなところで転ぶなんて」

「どれほど鈍臭いのかしら」

ヒソヒソと王女たちが話す中、エラは居てもたってもいられなくなり、使用人に駆け寄る。

「大丈夫ですか？」

エラは倒れている使用人に声をかけ、手を差し伸べる。

「すみません。転んでしまって……」

エラと歳がそれほど変わらなさそうな使用人だった。怪我はしていなさそうだ。