人魚のお姫様

「エラからキスなんて、初めてだな!」

ディランは嬉しそうに笑う。エラも優しく微笑んだ。

ディランには、この恋は諦めてもらおう。そうエラは思った。だからこそ、最後に優しい思い出だけを残してあげたかったのだ。

美しいドレスに着替え、朝食を食べる。王女たちの視線は冷たかったが、ディランはエラからキスをしてもらったことでご機嫌で、いつもより使用人たちに笑いかけた。

「エラ、今日の自由時間に街へ出かけよう」

そんなことまで言い始め、エラは「わかりました」と微笑む。きっと、これが最後だと思っていたから……。



「では、最後の勝負をしたいと思います」

王妃の声が重々しく響く。

エラたちがいるのは、二日間勝負をした大広間ではない。パーティーの際に使われる場所にいた。エラたちも、普段着として着るドレスではなく、パーティードレスに着替えるように言われた。

「エラ、これがお前のパーティードレスだ」

いつもとは違うタキシードを着たディランにドレスを渡され、エラはすぐに着替えを済ませた。一体何をするのか、ドキドキと胸は高鳴っている。