「亡くなった愛犬との出会いの場」
簡単に言えば愛犬を拾った場所である。
それがどこかと言えば、ここ。
橋の下、だ。
……我ながらベタだと思う。そこら辺の橋の下に犬が捨てられてるなんてそうそうあることではないと思う。勿論これは全国どこでもありそうなただの橋では無い!この川は地元で地味に綺麗な夕陽が見えるとちょっと有名な三日月湖の河口近くの橋で、この橋の上から見る夕陽もまた絶景と言えなくもないのだ!
……要するにただの橋である。
何年か前にここの近くの夕陽絶景スポットへ撮影に来た時、散歩と称してふらふらしていたらここを見つけたのだ。ここが本命では無かったが、夕陽が綺麗だったので写真を撮っていたら弱々しい鳴き声が聞こえて…というよくある(?)パターンだ。
まだ子犬だし、空腹で寒そうだったからよく考えもせずに連れて帰ったが、引き取り手を探すのも面倒だから飼うことにした。幸いな事にあの仔は乗り物酔いもしないし旅行も好きみたいで仕事で行ったり来たりする俺にはとても助かった。人懐っこいアイツはどこに行っても地元の人にモテたなぁ。全く警戒心のない奴だったから誰にでもすり寄っていってた。
ちょっと我儘なところもあったけど言う事は大抵聞く良い仔だった。俺もしばしばアイツで写真を撮ったりしたな。自然の中に動物を入れると映えるし、愉しそうに自然の中で遊ぶアイツを撮ってて、こっちも楽しかった。アイツはいつでも愉 しそうにしてたな。その顔を見るだけでどれだけ癒されたことか。
……昔を思い出していたら懐かしくなってきた。
あぁ、アイツに会いたいな……
……自分で言ってて気持ち悪くなってきた。
俺ってこんなに感傷に浸るタイプだったのか?
そんなにアイツが死んでショックだったのか?
愛犬が死んだからそりゃショックではあったけど。なんか、こう……喪失感と言うのか?あまり引きずるタイプではないと思ってたが……
あったはずの物がないって嫌だな。
俺って知らなかっただけで結構、
飢えてたのかな……
自分が気付いてなかっただけで、空っぽだったのか?
一度満たされることを知ってその事に気づいたからこんなにも空しいのか?
…………解らないものだな。
自分の事は自分が一番分かってるなんてよく言ったものだ。
そんな人間、簡単にいるものか……?
本当は自分が一番分からないのにな……
そうとは言え、いい加減引きずるのは止めないと。仕事に支障が出ないとも限らないからな。
アイツには悪いがこの仕事が終わったら、アイツの事は忘れよう。
アイツとの思い出も過去のものとして扱おう。
今はもう居ないんだから。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
ピピッ
橋から見る夕陽はやっぱり綺麗だった。
けれど
他県からわざわざこの為に来る人はいないかもしれない。
カシャカシャッ
だから俺が
ここの写真を撮ることで。
ピッッ
写真にただ景色だけを写すのではなく
この場所に込められた俺たちの思い出や想いを
この写真に写せたら。
カシャッ
誰かがこの写真から
見出してくれれば。
カシャッ カシャシャッ
俺が写した想いを
ひょんな所で運命は顔を現すかもしれない
俺がアイツと出会ったように
運命のようなものは存在するかもしれない
そんな精一杯の希望をこの場所に
見出してくれれば。
ここへ、来てくれれば。
パ、シャッ
また誰かがここで誰かと
短くても、少しでも、時間を共有し合える。
そんな俺の希望のために。
俺たちのようにまた
誰かが誰かと繋がりをもてるように。
俺たちの「次」に出逢う
誰かがいるように
俺が次を創ろう。
次を創るために、
俺は、今、ここで、
写真を撮ろう──────
───気付けば俺は、構えていたカメラを降ろし、静かに顎から水滴を滴らせていた───



