「ぅん~~~~っ」
朝、起きて延びをする。
ベッドから降り、すり寄ってくる愛犬を撫でる。
そして顔を洗う。
それが日課だった。
そう、つい一週間前までは。
ここ一週間は「すり寄ってくる愛犬を撫でる」事がなくなった。
当然といえば当然だ。
俺がここにいる理由の一つだから。
ここは愛犬と出会った場所、に行くために泊まった旅館の布団の上だ。
勿論、その場所に行くのは仕事の一環であり私事のためだ。「亡くなった愛犬との出会いの場所」を仕事場にするなんて馬鹿みたいだが。そこまでしないと泣きたくなる程愛していた、と言うことにしておこう。
事実、朝は手のやり場に困っているから。
ここ一週間の日課通り顔を洗う。
さっさと着替え、自然な動作でカメラを手にして部屋を出る。
予定より遅くなったが朝食を食べる。
さて、散歩がてらに目的地に行くか。
受付の仲居さんに一声掛けてロビーを出ようとした。
出入口の扉から俺が出ようとしたら同じ扉から誰かが入って来ようとした。
幸いぶつからなかったが、向こうは何かを落としたらしい。辺りを見回している。
「すみません。なにか落としてしまいました?」
「あっ、こちらこそ、すみません!いえ、落としたのではなくて、その、連れてきていた猫のリードを離してしまって……」
おどおどして彼女は答える。
人見知りなのかな
どこかびくびくする猫を連想させる人だった。
「猫ですか。一緒に探しますよ」
「えっ、いえそんな、大丈夫ですから」
「まぁ良いじゃないですか。好きでやるんですから」
こういう人はちょっと強引にいった方がいい
職業柄人と接する機会が多く普通の人よりは人の動かし方を知っているつもりだ。
半分は自分の所為でもあるので手伝うのは当たり前だろう。
俺も辺りを見渡してみる。
見渡しただけでは見当たらなかったので、近くに猫が居そうな所がないか探してみる。
軒下、足場があり登りやすい屋根の上、程々に高く枝が多めの木、車の下、建物の隙間、植え込みの中、などだ。
少し探せば目当ての子は見つかった。
すぐ近くの植え込みから此方を警戒していたみたいだ。
猫の方は直ぐに見つけられてびっくりしたようだが、俺はお構い無しにひょいと抱っこする。
「ほら、居ましたよ」
「えぇっ!!…本当だ、早い、凄いですね!ありがとうございます!」
「そんな事無いですよ。お気を付けて」
そう言ってその場を離れる。
しかし知らぬ間に猫の扱いまで上達したようだ。
まあ、これも仕事の所為だろう。
カメラマンの職に就いていると各地の人と話したり、被写体とも触れ合う。
それでも普通こうはならないだろう。
動物と仲良くなるのは俺が人も動物も、街並みや自然も撮るからだらろう。
動物も自然もみんな好きだから撮りたくなる。
だから俺は動物カメラマンや戦場カメラマンの様に被写体をこれといって決めていない。撮りたくなったものを撮るのだ。
お陰で色々なスキルが予期せず上がる。
これは嬉しい誤算と言うのかは分からないが。