ありったけの恋心をキミに

「なあ」


歩きながら中学時代を思い出す私の耳に、突然、聞き覚えのある声が届いた。

とっさに振り向くと、教室の窓に肘をつく佐藤くんと目が合う。

私、ぼうっとしていたのかな。もうこの教室にたどりついている。それだけでもビックリなのに、まさか、話しかけてもらえるなんて……。

驚きの連続で言葉が出てこない。そのまま、ぽかんとしていたら……。


「映画とか、俺が誘ったら喜ぶ?」


佐藤くんは表情をひとつも変えずに、その言葉を口にした。


「……っ!?」


今、“映画”って言った……? 思いもよらない言葉に耳を疑う。

聞いて思い浮かべたのは、最近観たドラマ。デート中に映画を観ながら手を繋ぐ男女のシーンだった。

なんで誘ってくれるの? ……たぶん、ただの気まぐれだと思うけど、でもこれってデートだよね!?

予期せぬ展開に心が躍る。でも、同時に……。


『ちゃんと勉強してる?』


昨日のお母さんの言葉が脳裏に浮かんだ。

……たしかに、このままじゃ成績も悪くなるかもしれない。恋をしてからは漫画を読んだり、恋愛ドラマを観たりするようになって、勉強する時間も減ってはいるから。

でも、この機会を逃せば、こんなこともう二度とないような気がする。


「っ、うん!」


行きたい気持ちが勝って、私は返事を待つ佐藤くんに満面の笑みでうなずいてしまった。