「津野くん、ゴメン!…教科書見せて。」
「…また?」

始業直後、先生にバレないように、ひっそりと話しかける。隣の席の津野くんは、今日もものすごく嫌そうな顔をしている。

「次から気をつけます!」
「…それも何回目だよ…。」

私は後頭部に手を当てて笑いながら、明らかに反省してない謝罪をする。津野くんは心底呆れたご様子。…でも、なんだかんだで見せてはくれるのだ。

「ありがとー、津野くんっ。」
「ハイハイ。次はないからな。」

津野くんはふい、とそっけなく頬杖をついて、また黒板の方を向く。私はいそいそと自分の机を彼のそれへと寄せた。

…ごめんね、津野くん。
忘れたなんて嘘なんだ。

そーっと気づかれないように、津野くんのことを盗み見る。

長い指も、手持ち無沙汰にシャーペンをくるくる回す仕草も、跳ねさせた襟足も、授業中にしかかけない黒縁メガネも…。
はぁ、…好き。