私が出るのを待ってから出たらいいのに、そんな風に考える余裕もなかったんだろう。
隣の個室からそろり、人が出る音が微かにした。
………ま、まぁ、私も本当は入っちゃいけないところに入ってるわけだし!?
いいい今のは聞かなかったことにしよう……うん。
わ、私は何も聞いてない…!
何度も自分に言い聞かせた。
しばらくその場から動けなくて。
ようやくドキドキが落ち着きはじめたところで、私も個室を出る。
するとまだ、隣の個室は閉まっていて。
…男の方は残されてるんだよね?
そんなことを思って顔に火がつくと、その火を消すために首をブンブンと激しく振った。
私は何も聞いてないんだからっ…!
個室の外には消臭剤の匂いではない、甘いバニラみたいな香りが少しだけ残っている。
