「やめて……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「……どうして、貴方が謝るの?」



頭上から降り注いだ精細な声に、マイケルがハッと目を覚ますと――枝垂れる金髪の中で揺れる青い目が、自分を静かに見下ろしていた。

まるで、サフィアの様な美しい光を湛えたその煌きに彼は思わず魅了され、そしてふと自分の後頭部の柔らかい感触に気付き……

マイケルは慌てて飛び起きると、彼の膝枕をしていた修道服姿のイデアから後ずさった。

「なっ……!? イデア!? どうしてここに!?」

「庭の草木に水やりをしようとしたら、貴方が茂みで寝ているのが見えたから……こんな所で何をしていたの?」



気が付けば日は暮れ、辺りは夜の帳に包まれ始めていた。

月光を浴びて、人形の如く美しく艶麗な顔立ちを向けるイデアに、マイケルは言葉に詰まった。

「いや、何ていうかその……うたた寝をしていたらうっかり寝過ごしちゃって……」

「私、こんな所で寝る人初めて見た」



そう言ってイデアは無表情なままマイケルを見つめて立ち上がった。

「それより聞いて。今は貴方の寝相の話をしている場合じゃないの」

「え……? 何があったんだ?」

「外で寝ている貴方に気付いて、この庭に出てから……どこにも人の気配がしないのよ。何か心当たりはない?」



確かに耳を澄ましてみても生徒や先生の話声は聞こえてこない。

元から礼拝堂には誰にもいないが、それにしても静かすぎる。

「さあ、僕は寝ていたから……居住区には誰かいるんじゃないの?」

「貴方を起こす前に窓から覗いてみたけどもぬけの殻だった」

「念の為に聞くけど……スマホは?」

「当然の様に圏外よ。だから一緒に来て」

「来てってどこに?」

「教会の外に決まってるでしょ。麓の学校には誰かいるかもしれない」



確かに彼女の言う通りだ。

修道服姿のままのイデアに袖を惹かれて教会を出ると、二人は無言のまま坂を下りた。

「あのさ……謝らなきゃいけないのは、僕の方なんだ」



沈黙に耐えられなくなってマイケルが口火を切ると、イデアは振り返りもせず言った。

「やめて」

「でも……」

「貴方は何も分かっていない。なのに私が負うべき罪を自ら背負おうとしている。貴方のその眼帯の下の目は、貴方に孤独を背負わした事実は、一生私が背負うべき罪」



彼女の言葉に、マイケルはナイフで胸を抉られる思いだった。

「謝らなきゃいけない、なんて言わないで。そんなことをされるくらいなら、いっそ私を殺してくれた方がいい」

「君が死ぬくらいなら……僕も死んだ方がマシだ」



だが、マイケルの言葉がイデアに届いたかは分からなかった。



「何、これ……!」