翌日。

学校が終わるとマイケルはイデアに話かけようとし、しかし思い止まって結局また彼女の後をつけた。

何も、好き好んでこんなストーカーみたいな真似をしているわけではない。昨日、狐男にイデアの側を離れるなと言われたせいでもない。

ただ、彼女があの邪悪な存在に狙われているのは事実だ。だから僕にはこうして隠れて彼女を見守る義務がある。

イデアが教会に入っていくと、マイケルは入り口から外の茂みに回り込んで窓から中を覗きこみ、様子を伺った。

イデアは、教会の居住区域で一旦聖女のローブに着替えると、聖母マリアの像の前でいつものように祈りを捧げ始めた。

薄いブロンドの髪と透き通るように白い彼女の肌も相まって、その姿は神々しくありながらもまるで今にも消えてしまいそうな儚さが漂っていた。

まだ語彙の乏しい幼子がもし今のイデアを見たならば、『天使の幽霊』……とでも形容したかもしれない。

沈黙の中で祈りを捧げる彼女の表情は、それくらい生気が感じられなかった。

この世の終わりを悟ってしまったかの様に諦観に満ちていて、それを見つめているマイケルは胸が締め付けられる様な思いだった。

日が落ちてきて、辺りに茜色の影が忍び寄り始めても彼女は微動だにしなかった。



窓越しに彼女を見守っていたマイケルだったが、不意に不思議な眠気に襲われ始め――いつしか彼は微睡の淵へと吸い込まれていった。