「一つ目の試練はクリアしたみたいだね。校庭から生徒たちがいなくなっている」



どうやらさっきの試練は、イデアが自分と向き合ったことで『贖罪』と見なされたらしい。

窓から外を確認したマイケルは、その時イデアが修道服の左足を抑えていることに気付く。

「どうしたの?」

「実はさっき茨の庭を抜ける時に切っちゃって……」



暗くて見えなかったが、イデアの足の傷は思ったより深い。

だが生憎と、この教室に常備されていた包帯はマイケルの手の傷で使い切ってしまっていた。

「僕の治療をしながら自分の傷を隠すなんて……イデアらしいや」

「だ、だって私に出来ることはこれくらいしかないから」



項垂れるイデアの肩を軽く叩き、マイケルは立ち上がる。

「僕が薬を探しに行くよ」

「大丈夫よ。これくらい何とかなる」

「いや、この先の試練でまた走る場面を想定すると今治療した方がいい。だから絶対にここから動かないで、敵が来てもすぐ身を隠すんだよ?」

「……うん。いつもありがとう」



マイケルが教室を出て行ってしまった後、イデアはぼんやりと窓の外を眺めていたが…… やがて、聞き覚えのある旋律を耳にした。

この歌声はどこかで聞いたことがある。

声は外の校庭から聞こえてくるようだった。

マイケルからは動くなと言われているが……何故か、はやる少女の好奇心を抑えられずイデアは階段を降り、校舎を出た。

校庭は生徒がひしめいていた先ほどと打って変わって静謐だった。

たださっきから可愛らしい子供たちの歌声だけが真ん中の方から聞こえてくる。

相変わらず漂っている紫色の霧だけが不気味だったが、イデアは一瞬あの『箱庭』のことを思い出して穏やかな気持ちになっていた。

そうだ……この歌声はいつも箱庭から聞こえていたんだっけ。

でも私が近づくとみんなが怖がって歌うのをやめてしまうから、いつも教会から窓越しに聞いていた。

そう言う意味では私はいつだって一人だった……もっと聞きたい……もっと近づきたい……その一心でイデアが校庭中ほどの大木に歩を進めたその瞬間、歌声が止んだ。

まるで蜘蛛の子を散らす様に子供たちの歌声が消え、辺りが静寂に包まれる。

と、次の瞬間、頭上から耳障りなけたたましい女の叫びが聞こえてきた。

「やっぱりノコノコつられて出てきたのね! 寂しい一人ぼっちのイデアちゃん! 仲間に入れてもらえなくて残念だったブー!」



「……誰?」