コイッペキ

じっと、息を潜めて礼拝堂の2階で待っていると。
ぎぃぃと扉が開いた。
スタスタと入ってきたのは、シオンだ。
後ろ髪がぴょんと寝癖になっている。

寝起き姿も凄くカッコイイ。
ヒナは心の中で叫んだ。
シオンを見てテンションが上がっているヒナに対して。
冷めきった目でエマはヒナを見ている。
時間があれば、説明したいところだが。
もう、説明している暇なんてない。

時は満ちた。
「用事って何?」
不機嫌そうにシオンが言った。
チューキチが立ち上がる。
「ちゃんと、話しておいたほうが良いかと思いまして。学祭まで、こんなギスギスした空気の中、俺やりたくないっすよ」
「……」
シオンが黙って、チューキチを見た。
「シオン先輩、俺のこと嫌いっすよね?」
「……」
「俺が、箕輪っちのこと、どう思っているか気づいてますよね?」

「ぇ…」と隣にいたエマが声を漏らす。
ヒナは慌てて、唇に人差し指を添えて、静かにするようにジェスチャーした。

昨晩。
ホタルは恐ろしい提案をしたのだ。
チューキチはヒナを利用したのだから。
今度は、ヒナがチューキチを利用すれば良いと。

具体的な案については、ホタルがチューキチに指示したようだが。
ヒナは心臓がバクバクしたままだ。
チューキチを使って、シオンがヒナのことをどう思っているか聞き出そうとしている…。
知りたいような、知りたくないような真実。
直接、自分が聴くわけじゃない。
チューキチに訊いてもらうのだ。

ホタル曰く、どうやら。シオンはチューキチに嫉妬しているのではないかと考えているそうだ。
ヒナはそれを聴いて、「そんなわけないって」と言った。
嫉妬というよりも、チューキチのようなチャラチャラした奴が嫌いなのではないか。
ヒナは考えた。
シオンは、落ち着いた人を好むから、チューキチみたいなタイプは苦手なのだと思う。

「俺、箕輪っちに思いを伝えたいと思ってるんすよ」
まっすぐな目で。チューキチが言うと。
シオンは目を見開いて。
何も言わない。
「シオン先輩って、箕輪っちのことどう思ってるんすか?」
「…幼なじみだよ」
低い声でシオンが言った。
「幼なじみってことは友達ってことっすか?」
「幼なじみは幼なじみだよ」
シオンがイライラした声で答える。
「幼なじみってことは恋愛感情はないってことっすよね?」
ぐさり。
ついにチューキチが核心をついた。
ヒナは口元を両手で押さえた。

シオンは微動だにしなかった。
それを言いことに、チューキチが一方手に喋る。
「シオン先輩、いい加減。箕輪っちに対して中途半端に接するのやめてもらっていいっすかねー。本人も困ってるみたいだし」
「……」
「何で、幼なじみなのに無視したり話しかけたりしないんすか? 箕輪っちの悩みの種、増やさないでくさだいよー」
そう言うと。急にチューキチがヘラヘラと笑い出した。
「てか、そもそも。箕輪っちとシオン先輩が幼なじみっていうのも釣り合わないっすよね」
「は?」
シオンの眉毛が吊り上がる。
チューキチがあえて、シオンを怒らせているのだというのがわかる。
シオンがだんまりを続けてしまったら。
何の意味も持たないのだ。
「シオン先輩みたいな人が、箕輪っちみたいな凡の人と一緒にいるのもおかしいっすよ」
(凡の人…!!)
隣いたエマは口をおさえて笑った。
チューキチのオリジナルワードに笑いをこらえるのが必死だ。

一方、シオンは怒っているのか。
チューキチワードには突っ込まない。
「シオン先輩もてるんだし、大丈夫っすよ! 箕輪っちなんか必要ないっしょ」
ヘラヘラと笑うチューキチに対して。
シオンはチューキチを睨んだ。
「おまえに、何がわかる?」