コイッペキ

ヒナが黙っていると。
折本は腕を組んだ。
「初めて会ったときから、モリエマのことは大嫌いだった。でも、好きな人の妹だから、多少は我慢したわ」
好きな人・・・。
その単語を聴いた瞬間、ヒナはめまいを感じた。

「学祭・・・。あの日から全部が変わった」
ヒナは黙ることしか出来ない。
誰も来ない。
静かな空間が妙に不気味に感じる。
「ピエールなんて大嫌い。よりによって、何であの子を代役にするの? 全部全部、あの子のせいじゃない」
組んでいた腕を解き放して。折本は右手をグーにした。
「祖母がね、私の出る劇を物凄く楽しみにしてた…。なのに、何なの? 本当に」
急に怒り出した折本に。
ヒナは一歩、後ずさりした。
「楽しみにしていた祖母はね、死んじゃったわよ。私の劇を本当に楽しみにしていたのに…」
憤りを覚えた折本は。
顔が真っ赤だ。
ヒナは静かに折本を見つめることしか出来なかった。
「学祭を楽しみにしていた人ってどれだけいたと思う? 全部、あの子のせいじゃない!」
「……」
折本は俯くと、急に「ふっ」と笑い出した。
情緒不安定なのか?
ヒナは背中に冷や汗をかく。
「あの子は罰を受けなきゃいけないでしょ? だから、私がね、仕返ししたの」
「仕返しですか?」
ヒナが尋ねる。
「そ! 簡単だった。演劇部の皆に『あの子のせいだ』と言っただけよ」
「……」
「次の日、あの子はボッコボコ!」
何を嬉しそうに話しているのだろう。
ヒナは悲鳴を上げそうになる。
でも、声は出ない。
「もともと、モリエマに対して嫌悪感しかなったんでしょうね。みーんな。あの子をボッコボコに殴ってたわ」
アハハと笑う折本。
「あ、安心して。私はあの子に指一本、手を出してないから。周りが勝手にやっただけよ」
この人は、頭がオカシイ。
ヒナはプルプルと身体を震わせて思った。
折本は、自分の手を汚さずして。
周りを巧みに操ってエマを攻撃させたのだ。

マインドコントロールが得意ということか。
だから、カッター事件のときも。
同級生の女子をマインドコントロールして。
攻撃しようとした。
自分は眺めているだけ。

「唯一の誤算はシオン君もボッコボコにされたことかな。シオン君、強いんだから反撃すればよかったのに」
プチッとヒナの頭の中で何かが切れる音がした。
この女は、本当に頭がオカシイ。
シオン君が、友達を殴れるわけないだろうが…。

嫌でも、シオンが殴られている姿を想像してしまう。
何人もの同級生に囲まれて。
殴られ蹴られ…。
そこに親友さえも混じっている。
「あなたも、私もモリエマの被害者なのよ。あの子がいなくなれば全部平和でしょ?」
「…折本さん」
ヒナは唇を噛んだ。
「折本さんって可哀想なんですね」