コイッペキ

合宿2日目も、ギッチギチのスケジュールが組まれていた。
午前中は、外を走ってこいとピエールに言われ。
とにかく走り。
今度は筋トレ、発声練習。ピエールから、演劇についての心構えや注意点を聴いた。
当日の舞台道具や衣装についても、ざっくりではあるけど話し合いをした。
余った時間は部分的に難しい場面を集中的に練習。
気づけばお昼だ。

昼食後、一時間の休憩が与えられるのだが。
ヒナは練習場である小ホールで一人、自主練をしていた。
エマは「疲れた」と言って部屋で休んでいるようだ。

誰もいない空間で、大声でセリフを言うのは最初は恥ずかしいと思ったが。
恥ずかしい…と感じる余裕は今はもうなかった。
ヒナが王子様と踊るシーンを一人で演じていると。
「ミノワヒナさんだっけ?」
と、言って。急に誰か入ってきた。
ヒナが振り返ると。そこに立っていたのは折本だった。
ヒナは嫌悪感を滲ませた表情をする。
「シオン君なら、ここにはいませんけど」
冷たく言い放つ。
ヒナはこの人と関わりたくないと思った。

「私は、あなたに用があるの」
「は?」
思わず、ヒナは折本を凝視した。
折本は、デートでも行くようなキラキラとした服装をしていた。
黒いプリーツスカートから、これでもかというくらい人間離れした長い脚が見えて。
上半身は身体にフィットした白いシャツを着ている。
「あなたも、モリエマの被害者なんでしょ?」
「は?」
ヒナは首に巻いていたタオルで額を拭いた。
Tシャツに半ズボン。ラフなヒナの服装と、折本の服装は対照的だ。

「あなた、モリエマと幼なじみなんでしょ?」
急に折本が微笑むので、ヒナは思わずぞっとした。
「ずーと、モリエマと比較されて生きてきたんでしょう? 可哀想に」
「…何がいいたいんですか?」
ヒナは折本を睨む。
この人は一体、何がいいたいのだろうか?
「私もあなたも、モリエマの被害者ってことよ」
折本は、アハハと声を出して笑った。