コイッペキ

お昼ご飯を食べて。1時間の休憩時間を得て。
シンデレラの練習が再開された。
午後は、まさかの通し稽古であった。

ヒナは一生懸命、やってはいるのだが。
大根演技を通り越して酷いものだった。
セリフは棒読み。
なんとか、進めていくのだが。
問題が起きた。

王子様と初めて会って、シンデレラと王子が躍るシーン。
ヒナはシオンと見つめあった瞬間、セリフがすべて飛んだ。
真正面から、シオンを見ることが出来ない。

ぐだぐだな練習になってしまったが。
続けるしかない。
何度も、ピエール氏に怒鳴られながらも。
ヒナは涙をこらえて練習を続けた。

練習は21時まで続き。
一同は解散となった。
「ヒナちゃん、大浴場22時までだから早めに入ろう」
エマに言われ、お風呂に入った後。
ヒナはこっそりと小ホールへと戻って。
自主練をすることにした。

いくら時間があっても足りない。

ヒナはセリフを言いながら。
動きを確認する。

何で、こんなに自分は出来ないんだろう?
皆、呆れているに違いない。
昔から、私はそうだ。
常に誰かの足を引っ張る存在でしかない。

「はぁ…」
ため息をつくと。
どこからか、スマホのバイブレーションが鳴って。
ヒナは驚いた。
部屋の隅に置かれたスマホ。
多分、チューキチのものだ。

スマホは黒色の手帳型ケースに入っているようで。
ケースから何かがはみ出ている。
何だろうと思い。
ヒナは好奇心から、チューキチのスマホを持ち上げた。
「あ・・・」
見てはいけないものを見てしまったとヒナは思った。
と、廊下のほうから誰かの足音が聞こえたので。
ヒナは慌ててスマホを元の場所に戻した。

「あれ、箕輪っち。まだ、練習してるんすか?」

入ってきたのはチューキチだ。
「あ、うん。ちょっと自主練」
ぎこちなくヒナが笑うと。
チューキチは「あ、あった!」と言って。
スマホを持ち上げた。
「スマホなくしたと思ったら、ここにあって良かった~」
「そう・・・」
ヒナは心臓がバクバクするのを感じた。

「あのさ、チューキチ君」
「何すか?」
風呂上りなのか、チューキチのオレンジ色の髪の毛が濡れている。
「あの…。あ、チューキチ君って誰と相部屋なの?」
「俺すか? 俺は、最初シオン先輩と一緒だったんすけど。ちょっとシオン先輩にNGくらったんで。ホタルさんの部屋に居候させてもらうことになったっす」
「シオン君にNGって…」
「ハハ・・・大丈夫っす!」
とチューキチは笑った。
「じゃ、部屋戻るっす。あんま箕輪っち、無理しないように」
「うん。ありがと。おやすみー」

チューキチが行ってしまった。
そういえば、シオンは神経質だったなというのを思い出した。
他人と一緒に寝るのが苦手で、小学生の頃は学校行事で泊まりがあると。
「そんなもん、なくなっちまえ」と毒を吐いていた。

おそらく、チューキチに何か言って。
追い出したんだろうな…。
「はぁ…」
シオン君のことを考えるとしんどいわ…。

とにかく、今日一日だけで色んなことが起こった。
それでも。
今やるべきことは演劇なのだ。