コイッペキ

午前中の練習を終えて。昼食と休憩時間に入った。
ヒナは、ぐしゃりとその場にしゃがみ込んだ。
「もう、無理だ…」
台本を見ながら泣きそうになる。

ただでさえ、演劇経験がない上、何をやっても不器用なヒナ。
自覚していたが、ここまで出来ない人間だったのかと哀しくなる。

台本読みの時点で、皆「あれ?」と思ったに違いない。
感情を込めることが出来ない。
既に台本は棒読み。

エマやシオンは流石、天才。
感情を込めて何も見ないでセリフが出てくる。
そして、チューキチは。
ヒナと同じく素人だというのに。
とにかく、上手いのだ。

主役がこんなダメダメで大丈夫なのだろうかとヒナは落ち込む。
ピエール氏は端で皆を見ながら。
「ヒナ、ノー、ノー、ノー。ワカッテナイネー」
と言って。英語とカタコトの日本語で注意をしてくる。

わかってる。
下手だって。
皆の足引っ張ってるってことくらい。
でも、やるしかないんだ・・・
「頑張らなきゃ」
ヒナは台本を握りしめる。

「箕輪っち、早く食堂行かないと13時にクローズだって」
チューキチの言葉に、ヒナは我に返った。
気づけば部屋には誰もいなかった。
「大丈夫すか? 箕輪っち」
心配そうにヒナを見つめるチューキチ。
「なんとか・・・」
力なくヒナは答えた。

立ち上がって、よろよろとチューキチと歩き出す。
食堂に向かう最中、大学生だろうか? 女性4人組とすれ違った。
「まぢで、イケメンだったんだけど」
「テンションあがるよね、あれだけカッコイイ人いたら」
キャーキャー言っているのを聴いて。
ヒナは、もしやシオンのことを言っているのではないかと不安になった。

食堂に到着すると。
既にエマ達はご飯を食べていた。
「あれ、シオン君は?」
エマ達の側にいないので。全体をヒナは見回した。
「あ・・・」
皆から離れて。
シオンは折本とご飯を食べている。
見るからに、一方的に折本がくっついて食べているように見えた。

嫌なものを見てしまった・・・
ヒナは酷く後悔した。
シオン君が女の子とと喋っている姿なんて見たくない。

「箕輪っち早く食べたほうがいいっす」
そう言って、チューキチがトレイをヒナに渡した。
どうやら、セルフサービスらしい。
トレイを持って。
厨房の料理の受け取り口に並ぶ。

皆、食べ終えているのだろうか。
並んでいるのはヒナとチューキチだけだ。
「醤油ラーメンか味噌ラーメンか選べるっす」
と、チューキチが説明してくれた。
「醤油ラーメンで」
とヒナが言うと。
厨房から「はーい」という男性の声がした。

暫くして厨房から、「どうぞ」とヒナのトレイの上にラーメンが置かれる。
ヒナは「ん?」と思った。
恐る恐る前を向くと。
ラーメンを置いたのは、ホタルだということにすぐ気づいた。
「ほたる・・・?」
「どうした、ヒナ。お化けでも見たような顔して」
と言ってホタルが笑う。
ホタルは白いシャツに黒いエプロンをつけていた。
「何で、ホタルがいるの? 友達と旅行行くって言ってなかった?」
ヒナは思わず大きな声を出した。
「ああ。言わなかったけ? 住み込みでバイトしてるんだ」
ニコッ。
ホタルが笑うと。
遠く離れて座っていた女性陣が「キャー」と悲鳴をあげた。

そうか、廊下ですれ違った女子大生が言っていたのは。
ホタルのことだったのか…。

「まさかの知り合い全員集合とか…。どういうこと?」