明日の終業式を迎えれば。
夏休みに突入する。
そうすれば、当面。シオンに会うことが出来なくなる。
いくら家が隣同士だとはいえ。
本当に会わないときは夏休み中、ずっと会えないのだ。
「どうすればいいんだぁぁぁぁ」
ヒナは机の上に突っ伏した。
そして、手帳を開いて。
ヒナはため息をつく。
どうすれば、いいのだろう。
ブブッ。
ベッドの上に投げておいたスマホが鳴る。
バイブにしたままだったと、ヒナはスマホを拾い上げる。
エマからのメッセージからだ。
「今から、ヒナちゃんのところに行くねー?」
という言葉に。
ヒナは慌てて。
玄関に向かって、ドアを開けた。
「やっほー、ヒナちゃん」
エマは遠慮せずに家に入ってきた。
「珍しいね、エマがこんな時間に来るなんて」
エマは迷いもせずヒナの部屋に直行する。
時計は22時近くを示している。
エマは白いTシャツに黒のショートパンツを履いていた。
こんなシンプルな服装なのに。
どうしてこう似合うのだろうと、ヒナは感心と嫉妬を覚える。
ヒナといえば、相変わらず首元が伸びきってよれよれになったTシャツと。
中学のときの体操着だったハーフパンツを着ている。
「あのね、ヒナちゃん。シンデレラを演じてくれないかな?」
「は?」
2人揃って。
ベッドに座り込む。
ヒナはいきなりどうしたのだろうと首を傾げる。
「シンデレラ、知ってるでしょ? 幼稚園の時、私が演じたやつ」
「いや・・・シンデレラの話は知ってるよ。でも何で私? というか、急にどうしたの?」
ヒナが言うと。
エマは急に面倒臭そうな顔をした。
その表情をしているときは。
軽く馬鹿にされているのだというのをヒナは感じ取った。
どうして、わからないの? ヒナちゃんは・・・
というニュアンスだろう。
そんなこと思われても。
凡人にはわかりっこない。
「あのね、ヒナちゃん。演劇部の手伝いをしてほしいんだ」
ヒナが黙り込んだので。
エマは観念したのか。
一つずつ説明し始める。
「今度、学祭あるでしょ? その時に部活でシンデレラを演じることになって。そこで、ヒナちゃんにシンデレラを演じてもらいたいなって」
「…エマ。まず、私は演劇部に所属しているわけじゃないから無理でしょ?」
「大丈夫! 私も演劇部じゃないから!」
急ににっこりと笑って、エマが意味不明なことを言い出すので。
ヒナは「ん?」とエマを凝視した。
「ヒナちゃん。ごめん。ずっと黙っていたけど。私、演劇部ってわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
エマの衝撃的な言葉に驚くヒナ。
「演劇部じゃなくて、演劇同好会なの。演劇部には…入れなかったから」
自分で話しておいて、急に落ち込みだすエマ。
ヒナは「えーと…」とエマを励まそうとする。
「落ち込んでたらね、演劇部の顧問の先生が『じゃあ、自分で部活作っちゃえば?』と言ってくれて。自分で演劇同好会を作ったんだ。メンバーはね、アユとオハルの3人で!」
落ち込んだかと思えば急に明るい声を出すエマにヒナは黙った。
「でも、3人でしょ? そうすると、なかなか活動が出来なくて…。そうしたらね、先生が誰かに手伝ってもらえばって言うからね!」
「…いや、でもだからって。私がシンデレラ演じるっていうのは」
どうして、エマが急にこんなことを言うのだろう。
「仮に私が手伝うにしても、主役を演じるとしたら、エマでしょ?」
こんなぱっとしない自分がシンデレラを演じることなんてできない・・・。
ヒナは幼稚園の苦い思い出を思い出した。
「大丈夫! 私は、魔法使いを演じるから」
「いや、そうじゃなくて…」
「大丈夫だって。学祭の日、小学校の礼拝堂で小学生と保護者相手に演じるからそんな、大がかりなもんじゃないし。ていうか、同好会だからそんな大がかりなんて出来ないし」
「いや、だから・・・」
「あのね、私がシンデレラやったら、お客さん沢山来ちゃうでしょうが!」
あ、自分で言うのね。
と、ヒナは心の中で思った。
と、同時にエマのストレートな言葉で納得した。
「それに、王子様役がシオンだもの。いくらなんでもシオンが相手は無理だわー」
「は?」
エマはヒナの両手を握る。
「ヒナちゃん。シオンが王子様役を引き受けてくれたんだよ」
「…嘘でしょ?」
エマは大きな目でじぃぃぃとヒナを見つめた。
「それがね、ヒナちゃんがシンデレラを演じるなら王子をやっても良いってさ」
「…ほんと?」
信じられない。
ヒナは思ったが。
目の前にいるエマの表情は真剣だった。
ぎゅっと力を込めてエマはヒナの手を更に握った。
「ヒナちゃんさ、シオンが今。幾つか知ってる?」
「は? 高2でしょ?」
「高2ってことは、どういうことかわかるでしょ?」
「…どうって?」
エマはヒナから目をそらして。
コイツは…とまた面倒臭そうな表情をした。
「あのね、ヒナちゃん。シオンは秋から受験モードに突入するんだよ」
「受験って…シオン君なら勉強しなくても、大学生になれるでしょ」
「…ほんと、ヒナちゃんは何もわかってない」
エマはイライラしたように。ヒナの手を離した。
「いくらシオンでも勉強はするわよ。秋から完全に受験モードに入っちゃうの! だから、今のうちだよ。ちゃんとシオンと向き合うのは」
「ぇ…」
「これを逃したら、もう一生シオンと喋れないかもしれないんだよ!」
「え…」
エマの恐ろしい言葉に。
ヒナは言葉を失う。
大きな目で、エマはヒナを見つめる。
「ヒナちゃんにとって悪い話じゃないでしょ。ぶっちゃけ、ヒナちゃんには拒否権ないからね」
あっさりと。
言い放った言葉にヒナは何も言えなくなった。
いつだって、エマは勝手に話を決めてしまう。
いつものエマのマシンガントークが途切れて。
一気に静かになった。
リビングから、時折。
チリンチリンと。
風鈴の音が微かに聞こえてくるだけだ。
「わかったよ…エマ」
もう深く考えている暇なんてないのだろうと。
ヒナは思った。
とりあえず、不機嫌な態度を取っているエマに頷くと。
急にエマは、とびっきり可愛い笑顔を見せた。
「やったー。じゃあ、明日。台本持ってくるね」
「うん…」
「あ、あと。8月の頭に2泊3日で合宿があるから。それまでに台本暗記しておいてね」
「…ハイ?」
夏休みに突入する。
そうすれば、当面。シオンに会うことが出来なくなる。
いくら家が隣同士だとはいえ。
本当に会わないときは夏休み中、ずっと会えないのだ。
「どうすればいいんだぁぁぁぁ」
ヒナは机の上に突っ伏した。
そして、手帳を開いて。
ヒナはため息をつく。
どうすれば、いいのだろう。
ブブッ。
ベッドの上に投げておいたスマホが鳴る。
バイブにしたままだったと、ヒナはスマホを拾い上げる。
エマからのメッセージからだ。
「今から、ヒナちゃんのところに行くねー?」
という言葉に。
ヒナは慌てて。
玄関に向かって、ドアを開けた。
「やっほー、ヒナちゃん」
エマは遠慮せずに家に入ってきた。
「珍しいね、エマがこんな時間に来るなんて」
エマは迷いもせずヒナの部屋に直行する。
時計は22時近くを示している。
エマは白いTシャツに黒のショートパンツを履いていた。
こんなシンプルな服装なのに。
どうしてこう似合うのだろうと、ヒナは感心と嫉妬を覚える。
ヒナといえば、相変わらず首元が伸びきってよれよれになったTシャツと。
中学のときの体操着だったハーフパンツを着ている。
「あのね、ヒナちゃん。シンデレラを演じてくれないかな?」
「は?」
2人揃って。
ベッドに座り込む。
ヒナはいきなりどうしたのだろうと首を傾げる。
「シンデレラ、知ってるでしょ? 幼稚園の時、私が演じたやつ」
「いや・・・シンデレラの話は知ってるよ。でも何で私? というか、急にどうしたの?」
ヒナが言うと。
エマは急に面倒臭そうな顔をした。
その表情をしているときは。
軽く馬鹿にされているのだというのをヒナは感じ取った。
どうして、わからないの? ヒナちゃんは・・・
というニュアンスだろう。
そんなこと思われても。
凡人にはわかりっこない。
「あのね、ヒナちゃん。演劇部の手伝いをしてほしいんだ」
ヒナが黙り込んだので。
エマは観念したのか。
一つずつ説明し始める。
「今度、学祭あるでしょ? その時に部活でシンデレラを演じることになって。そこで、ヒナちゃんにシンデレラを演じてもらいたいなって」
「…エマ。まず、私は演劇部に所属しているわけじゃないから無理でしょ?」
「大丈夫! 私も演劇部じゃないから!」
急ににっこりと笑って、エマが意味不明なことを言い出すので。
ヒナは「ん?」とエマを凝視した。
「ヒナちゃん。ごめん。ずっと黙っていたけど。私、演劇部ってわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
エマの衝撃的な言葉に驚くヒナ。
「演劇部じゃなくて、演劇同好会なの。演劇部には…入れなかったから」
自分で話しておいて、急に落ち込みだすエマ。
ヒナは「えーと…」とエマを励まそうとする。
「落ち込んでたらね、演劇部の顧問の先生が『じゃあ、自分で部活作っちゃえば?』と言ってくれて。自分で演劇同好会を作ったんだ。メンバーはね、アユとオハルの3人で!」
落ち込んだかと思えば急に明るい声を出すエマにヒナは黙った。
「でも、3人でしょ? そうすると、なかなか活動が出来なくて…。そうしたらね、先生が誰かに手伝ってもらえばって言うからね!」
「…いや、でもだからって。私がシンデレラ演じるっていうのは」
どうして、エマが急にこんなことを言うのだろう。
「仮に私が手伝うにしても、主役を演じるとしたら、エマでしょ?」
こんなぱっとしない自分がシンデレラを演じることなんてできない・・・。
ヒナは幼稚園の苦い思い出を思い出した。
「大丈夫! 私は、魔法使いを演じるから」
「いや、そうじゃなくて…」
「大丈夫だって。学祭の日、小学校の礼拝堂で小学生と保護者相手に演じるからそんな、大がかりなもんじゃないし。ていうか、同好会だからそんな大がかりなんて出来ないし」
「いや、だから・・・」
「あのね、私がシンデレラやったら、お客さん沢山来ちゃうでしょうが!」
あ、自分で言うのね。
と、ヒナは心の中で思った。
と、同時にエマのストレートな言葉で納得した。
「それに、王子様役がシオンだもの。いくらなんでもシオンが相手は無理だわー」
「は?」
エマはヒナの両手を握る。
「ヒナちゃん。シオンが王子様役を引き受けてくれたんだよ」
「…嘘でしょ?」
エマは大きな目でじぃぃぃとヒナを見つめた。
「それがね、ヒナちゃんがシンデレラを演じるなら王子をやっても良いってさ」
「…ほんと?」
信じられない。
ヒナは思ったが。
目の前にいるエマの表情は真剣だった。
ぎゅっと力を込めてエマはヒナの手を更に握った。
「ヒナちゃんさ、シオンが今。幾つか知ってる?」
「は? 高2でしょ?」
「高2ってことは、どういうことかわかるでしょ?」
「…どうって?」
エマはヒナから目をそらして。
コイツは…とまた面倒臭そうな表情をした。
「あのね、ヒナちゃん。シオンは秋から受験モードに突入するんだよ」
「受験って…シオン君なら勉強しなくても、大学生になれるでしょ」
「…ほんと、ヒナちゃんは何もわかってない」
エマはイライラしたように。ヒナの手を離した。
「いくらシオンでも勉強はするわよ。秋から完全に受験モードに入っちゃうの! だから、今のうちだよ。ちゃんとシオンと向き合うのは」
「ぇ…」
「これを逃したら、もう一生シオンと喋れないかもしれないんだよ!」
「え…」
エマの恐ろしい言葉に。
ヒナは言葉を失う。
大きな目で、エマはヒナを見つめる。
「ヒナちゃんにとって悪い話じゃないでしょ。ぶっちゃけ、ヒナちゃんには拒否権ないからね」
あっさりと。
言い放った言葉にヒナは何も言えなくなった。
いつだって、エマは勝手に話を決めてしまう。
いつものエマのマシンガントークが途切れて。
一気に静かになった。
リビングから、時折。
チリンチリンと。
風鈴の音が微かに聞こえてくるだけだ。
「わかったよ…エマ」
もう深く考えている暇なんてないのだろうと。
ヒナは思った。
とりあえず、不機嫌な態度を取っているエマに頷くと。
急にエマは、とびっきり可愛い笑顔を見せた。
「やったー。じゃあ、明日。台本持ってくるね」
「うん…」
「あ、あと。8月の頭に2泊3日で合宿があるから。それまでに台本暗記しておいてね」
「…ハイ?」


