コイッペキ

ヒナをカッターで切りつけたモデル女子は。
その後、自主退学という形で学校を去ることになった。
モデル女子の後ろにいた取り巻きの2人は退学にはならなかったらしい。
「絶対にシオンには言わないで」
と、エマに釘を刺され。
ヒナはひたすら黙っている。
そして。頬の傷に関してホタルにやられた。
と、嘘をついてしまった。
その結果、シオンはホタルを殴り、ヒナを無視している。

これってどういう状況なのだろう?
シオンに嘘をついたことがバレたから?
じゃあ、何故。ホタルを殴ったのだろうか。

でまかせで嘘をついたとはいえ。
ヒナは気になっていることがあった。
「ホタル、どうしてよけなかったの?」
シオンに殴られたホタルを見て。
ヒナは首を傾げた。
シオンも強いが。
ホタルだって強い。
ホタルは中学校を卒業するまで空手を続けていて。
ぶっちゃけていえば、シオンよりも強いのかもしれない。

妹ながら、ホタルは器用な人間だと思う。
格好良いのかはわからないけど。
勉強はできるほうだし、スポーツだって万能だ。
面倒見がよくて、気が利くので。
年上からも年下からも愛される男だ。
「よけなかったって?」
とぼけた表情でシオンはヒナを見る。
唇から頬にかけて。
ホタルの顔は真っ赤に腫れている。
「シオン君の、よけようと思ったらよけれたわけでしょ?」
「まあね」
ははっ…とホタルは笑った。
「どうして、私のこと怒らないの?」
「怒るって? 何で?」
また、ホタルがとぼけた顔をするので。
ヒナは、はあ…とため息をついた。
説明するのも、何だか面倒臭いとヒナは思った。

ホタルはどこまでわかっているのだろう。
「ヒナとホタルの間に何かあったのかは、わからないけどさ」
ホタルはヒナをじっと眺める。
「オレは嬉しかったわけよ」
「は?」
殴られて嬉しいという兄に。
目が点になりかけるヒナ。
「ついこの間まで小さかったシオンがあんなに強くなって。オレは嬉しいわ」
「…何なの、ホタル」
ニッコリと笑うホタルに。
ヒナは悪寒を感じた。

それから。
ヒナが上級生の女子に頬を切り付けられた事件は。
まるで、最初からなかったかのように日常から切り取られた。
エマは何も言ってこなかった。
ヒナも何も考えないようにした。
だけど、シオンに無視されるのだけは。
どうしても辛いと感じていた。