コイッペキ

「箕輪っち、一貫コースの子が呼んでるよ」
ドアの近くにいたクラスの子が、ヒナに教えてくれた。
ヒナはドアのほうを見て。「うそっ!」と叫んだ。
小学校の卒業式以来。
久しぶりに現れたのは、ユリナだ。
「ユリナ、どうしたの!?」
ヒナが急いで、ユリナのほうへ駆け寄る。
「ちょっと、ヒナにお願いがあってさ。一緒に帰れる?」
「うん、ちょっと待ってて」
ヒナは急いで席に戻って、カバンに必要なものを詰めて。
立ち上がった。

久しぶりに会うユリナは。
幼稚園・小学校が一緒だった幼なじみだ。
小学校3年生まで、ユリナとは同じマンションに住んでいた。
小学校3年生のときに、ユリナの家が豪邸を建てて。
引っ越したというのを聴いた。

小さい頃からお団子ヘアがトレードマーク。
笑うと、左右にえくぼが浮かぶ。
可愛らしいアニメ声で、いつもニコニコ笑っていたユリナ。

久しぶりすぎて、お茶しようという話になって。
ファストフード店に入って。
2人でストロベリーシェイクを注文した。
「3年ぶりだよね!? 小学校の卒業式以来?」
向かい合って座るユリナの表情は。
大人ぽさが現れ始めている。
ガヤガヤと騒がしい店内の半分は。
うちの学校の生徒で埋まっている。
「また、元のマンションに戻ってきたの?」
「うん、うちのお兄サンと戻ってきたよ」
「おぉ! イケメンのお兄様だよね!!!」
ユリナが悲鳴交じりに、ホタルのことを褒め始めたので。
ヒナは力なくハハハと笑った。

「ところで、私にお願い事とは?」
ちゅぅ。
シェイクはまだ、ほどよく溶けていないせいか。
力を込めて吸わないと飲み込めない。
「あ、忘れてた! これ頼みにきたのに、てっきり忘れてたよ」
ユリナはカバンから何枚かのプリントを出してヒナに渡した。
「今日、エマ休みでしょ? だから、エマに渡してほしくて」
「ああ、了解!」
ヒナはプリントを確認してカバンにしまう。
ユリナは、シェイクを持って。
ちゅぅ…と音をたててシェイクを飲む。
ヒナは、じっとユリナを見ていたが。訊いておこうと思った。
「あのさ…、エマってクラスではどんな感じ?」
「ん? 何で?」
「いやぁ~、あんまりエマってクラスのこと話さないからさっ。メンバーって小学校から変わってないの?」
ユリナはシェイクを置く。
「んー。メンバーはね。2/3は小学校からのメンバーかな。あとは中学校から新しく入ってきた人もいて…えと、なんだっけ? あ、エマね。エマは相変わらずだよ」
「うん。ユリナはエマと仲良くしているの?」
質問していて。
まるで、自分はエマの保護者になったみたいだなということに気づく。
どっちかといえば、ユリナと仲良しだったのはヒナだ。
エマとユリナは昔から、ゆるーい距離感を持って仲良くしていた。
近づかず、離れすぎず。
どちらから「遊ぼう」と誘うこともなく。
公園でばったり会えば「じゃあ、一緒に遊ぼう」
と言った感じだった。

「私? うーん…。私より、アユやオハルのほうが仲良いんじゃないのかな?」
アユとオハル。
懐かしい名前だ。
2人とも幼稚園から一緒だった。
「そうなんだ。良かったー。今さ。エマと一緒にお昼食べてるんだけど、てっきり一緒に食べる人いないのかなって」
エマがいないことをいいことに。
どこか毒を含んだ言葉を口にしてしまうヒナ。

ユリナは瞬きを2回ほどすると。
「まぁ、エマって昔からアレじゃん?」
ユリナはシェイクを一口飲んだ。
「それに、中学の時にあんなことあったから、余計に人との距離感が遠いっていうかさ」
「…あんなこと?」