コイッペキ

幼なじみ。
はっきりと、シオンは自分のことをそう言った。
確かにそうだ。
確かに3歳からの幼なじみだ。
シオンの言うことは正しい。
そうです。幼なじみです。
(でもさ…)

嬉しかった感情が一気にしぼんでゆく。
シオンに対して笑顔でいられない。
なんで、泣きそうになっているんだろう。
「さっきの人って、同じクラスの人?」
店を出て。
シオンとヒナはゆっくりと歩き出す。
「折本のこと? 折本は違うクラスだよ」
「…え、じゃあ」
「手品部で一緒なんだ」
…手品部?
ヒナは目が点になりかけた。
確か、幽霊部員じゃかったのか。
何であんなに親しげなのか。
意味がわからない。
「へぇー。そうなんだ。キレイな人だよね」
アハハと声を出すと。
シオンは黙った。
(なんで、そこで黙る!?)
ヒナは心の中で突っ込む。

ゆるゆると坂道を歩けば。
もうすぐ、マンションについてしまう。
もう少し2人でいたい。
何か言い訳でもして、この時間を延ばせないだろうか。

ヒナは懸命に頭をフル回転させたが。
浮かばなかった。
家に着いたら、勉強でも教えてもらうかと思ったその時。
前方から、見覚えのあるオレンジ頭が近づいてきた。
「あれ、箕輪っちじゃね?」
半袖、短パン。
ラフな格好で現れたのはナカヨシだ。
「あれ!? チューキチ君?」
ヒナは大声を出す。
同じ学級委員になって。
何度か一緒の時間を過ごすうちに。
すっかりと打ち解けたヒナとナカヨシ。
ナカヨシはヒナのことを「箕輪っち」と呼び。
ヒナはナカヨシのことを「チューキチ」というあだ名で呼ぶ仲となった。

「え、どうしたの?」
ヒナが驚いてナカヨシに言うと。
「どうしたのって、友達の家に行った帰りだけど」
「あ、そうなの!? ビックリしたー」
ヒナは思わず笑顔になる。
急に緊張感や悲しみから解放された感じだ。

一人ぽつんと取り残されたシオンに気づいたナカヨシは「おぉ」と叫んだ。
「うぉ、箕輪っち。すまんっす。デート中の邪魔しちゃって」
「いやいやいや、デートじゃない…みたいだから」
ごにょごにょと言って。
ヒナは「じゃ。また学校で」と言って。
ナカヨシと別れた。
ナカヨシが現れてから、シオンは急に嫌な表情をした。

ナカヨシがいなくなったのを確認すると。
シオンは低い声で、
「あいつ、誰」
とヒナに質問してきた。
「へ? チューキチ君は同じクラスで。同じ学級委員の人だよ。多分、シオン君。委員会議で会ってるはずだよ」
「…あいつか」
小さな声で言うと。
シオンは速足で歩きだした。