コイッペキ

「いただきます」
ため息をつきながら、ご飯をほおばる。
今夜の夕飯は、鯵の開きとほうれん草のおひたし。
「毎回、俺の作ったご飯食べながら、ため息つくのやめてほしいんだけど」
眉間にしわを寄せて、ホタルが言う。
「まーた、シオンのことか?」
ホタルがヒナを見た。
ホタルは家にいるというのに、きちんとした服装だ。
それに比べてヒナはよれよれのTシャツと中学校時代に着ていたジャージのハーフパンツを着ている。
「人生で初めて、告白された」
「はぁ!?」
ホタルの口に入っていた米粒が飛び散る。
「きったないなー」と言ってヒナはホタルにティッシュを渡す。
「クラスの男子に告白された」
「…そうか」
ホタルは、ささっとティッシュでふき取ると。
ゴミ箱に捨てた。
そして、じぃーとヒナを見た。
「おめでとう」
「…おめでとうなの?」
ヒナは箸を置いた。

15年間、生きてきて。
生まれて初めて告白されて。
嬉しくない、ワケはない。
でも、相手の名前すらわからない。
どうして、自分なんかに告白してきたんだろ。
「ヒナ。良い機会だと思うよ。その男と付き合え」
「え、なんで?」
ホタルのことだから、断れと言うと思っていたヒナ。
予想外の言葉にホタルを見つめる。
「おまえの頭の中はシオンしかいないわけだろ」
「うん」
「でも、そのシオンとはうまくいってないんだろ」
「うん」
「じゃあ、まずは他の男を知って、色々と勉強するべきじゃないの」
「…うん?」
ホタルは味噌汁をすすった。
ヒナは首を傾げる。
「こう見えても、俺。おまえの百倍は恋愛経験あるんだからな」
「…知ってるよ」
幼いころから、シオン一筋のヒナと違って。
ホタルはプレイボーイと言ってもいいほど。
色んな女性と付き合ってきた。
妹のヒナの目からすれば、兄がカッコイイかどうかは判断出来ないが。
ホタルがとにかく、モテるということだけは知っている。
ホタルは、ある日凄いことを言ったのをヒナは覚えている。
「俺と3秒以上目が合ったら、みーんな女性は俺の恋人になるから」
その時のヒナは本気でドン引きした。

モテるといっても、この地域だけじゃないのかと思っていた。
しかし、北海道に引っ越しても。
ホタルはキャーキャー言われ続けていた。
何人かの女の子がうちに通い詰めたほどだ。
コンビニでバイトをすれば、売り上げが上がったという伝説。
ファミレスでキッチンでの仕事を希望して面接に行ったのに。
「君は顔が良いから」という理由でホールの仕事にまわされ。
「あのファミレスにはイケメンがいる」と噂になり。
お客さんが全員、ホタル目当ての女性で混雑したという伝説。

思い返せばキリのない数々の伝説を持った男。
それが、箕輪蛍18歳である。

「まずは、男心を知って。それから、シオンにアプローチすればいいんじゃね?」
ホタルの考えにヒナは何も言い返せなかった。