「ま、そんな頑張った甲斐があったみたいだけどね。こんなに寒いのに奈央ちゃんの顔は真っ赤だね」

クスクスと隣で笑う由希くんを睨む。

「・・・うるさい」


それは、私であってほしい。と素直に思ってしまった。他の人であって欲しくない。

それが今まで悩んできた答えの結果だった。

由希くんが言ったみたいに冷たい風を遮るものもない場所なのに、体全体が熱くなってきた。

水樹くんの姿、声、目、何もかも思い出すたびに胸の内が熱くなる。オーバーヒートしてしまいそうだ。

「私のどこをどう見ても好きになる要素なんてないのにね」
「本当だよね、飛び抜けて美人というわけでもないし」
「ねえ、聞こえてるよ」

私の文句に由希くんはまたもや意地悪そうに笑う。でもその表情はとても楽しそうで、これからの将来を祝福してくれているのだ。「ごめんって」と謝っているが、全くその気がないくらい笑っている。由希くんは「でも、きっとそれは」と言葉を続ける。

「惚れた弱みっていう奴じゃない?」

それはそれで恥ずかしくなってくるが、そうだったらいいなと嬉しさの方が勝っている。私ももっと、他の人がまだ知らない水樹くんの良いところを知っていきたい。理解したい。

気づけは時間が結構経っていて、由希くんは慌てて立ち上がる。どうやらこれから別件の仕事に行かないといけないらしい。売れっ子作家も大変だなと言うと彼は「でも楽しいから」と返す。

そして別れ際、早乙女由希は最後にこの言葉を言い残して消えていった。

「水樹にも幸せになってほしいけれど、俺の仕事をカッコ良いって言ってくれた奈央ちゃんの幸せも願ってるよ。2人が幸せに笑ってなってくれるだけで、俺も幸せだ」