道の脇にあるベンチに座って、ふと冬の空を眺める。雲ひとつない快晴なのに無機質なその青さは、キャパシティオーバーしそうな私に追い打ちをかけるように重くのしかかってきた。

いっそ考えることを放棄したら楽になるのに。でも放棄できないのが今の私である。

ああ、コーヒー飲みたいなぁ。

味気ないインスタントでもなく、缶コーヒーでもなく・・・水樹くんが淹れたコーヒーが。彼の淹れたコーヒーがどのコーヒーよりも美味しさ以上に何かを満たしてくれる気分になるのは、きっとコーヒーにではなく水樹くん個人に特別な何かがあるのだろう。それは今までずっと、顔が綺麗だからとか、目が綺麗だとか、所作が綺麗だとか、そういうミーハーな心で見ていた対象だからだと思っていた。それを「好きだから」という気持ちにはシフトすることをしない・・・いや、気づかなかったフリをした覚えは大いにある。

恋愛の相談なんて今まで友人にもしてこなかったような私にとって試練のようで、重苦しいため息をついた。

その時。

「あっれ〜、奈央ちゃん?」
「・・・由希くん?」

そのため息を吹き飛ばすくらいの陽気な声が聞こえてきた。少し前に知り合った恋愛小説家の早乙女由希である。「よ!」と左手を上げて、フェンス向こう側から声をかけてきたのだ。今日も個性的だがとてもオシャレな格好をしており、背には大きなリュック、右腕には茶色の紙袋を抱えていた。

「どうしてここに?」
「この辺で仕事の用事があってさ。奈央ちゃんの家この辺なの?偶然だね」
「うん。ここから歩いて割とすぐだよ」

「えへへ、そうなんだ」と言いながら由希くんは、私の隣に腰掛けた。そして抱えていた紙袋から取り出したのはこの公園の向かいの道沿いにあるベーカリーのパン。彼は2つあるうちの1つを差し出す。どうやらくれるらしい。しかし残りの1つだけでは由希くんがお腹を満たせないだろうと気が引けたが、私自身も起きてから水分しか口にしておらずお腹は空いている訳で、遠慮なく頂くことにした。

「美味しいよね、あのお店のパン」
「うん。私はハムサンドがお気に入りなの」