* * *
「夏希、ここで降りろ」
「…はぁ?」
買い物終わり。
結局今度でいいやと買わなかったものが多く、買ったのはレース地のシャツと爽やかな香りのする香水だけだった。
それに比べてゆきちゃんはフライパンやら鍋やら日用品を買い替えたかったらしく紙袋や小さなダンボール箱が山積みになっている。
それからお茶をしていい時間だから帰ろっかと3人で話して…。
ショッピングモールと家のちょうど中間辺りで車が止まったものだから首を傾げるとお兄ちゃんからそう言われた。
「いや、降りろって…」
別に見慣れた景色だから、歩いて帰れない訳でもないけど…。
「この意味分かるだろ?」
ここから如月さんの家が近い。
降りて鉢合わせなんてしたくない。
でもお兄ちゃんはどうしても合わせたいのか車を動かそうとしない。
ゆきちゃんに助けを求めると、やんわりと微笑まれた。
…ゆきちゃんの裏切り者っ!と心の中で毒づく。
「…でも、如月さん家にいるかわかんないじゃん」
「あぁ、この近くの公園にいるってさ」
呆気なくそう言われて、悔しくなる。
「まさかとは思うけど…謀ったでしょ」
「まぁ、こうでもしないとお前避け続けるだろ?」
たぶん、最初から仕組まれてた。
おかしいと思った。
午後から買い物なんて。
普通、ゆきちゃんなら午前中からゆっくりお店回るもん。
「…いつ電話したの」
「遥人から来たんだよ。3日前くらいに。全然夏希が電話に出てくれないからって」
ちょうど連絡が無くなった時だ。
むぅとむくれる。
「降りたくない」
「ふぅん。じゃあ…」
駄々をこねるとお兄ちゃんがいきなり振り返り私が買った服と香水の袋を掴んだ。
それから車を出て公園の方に向かって行く。
ゆきちゃんも驚いたようで私と同じように呆気に取られた顔をしていた。
しばらくして戻ってきたが、手に紙袋はなく手ぶらだった。

