「…んっ、」
唇にあたっているものが何か分からなくて。
やっと理解できたのは、そっと離れた後だった。
びっくりして思わず指先でなぞる。
いつの間にか涙もとまっていた。
「…はぁ」
固まっていると上から大きなため息。
そういえば私、すごい不満をこぼして…。
カッと勢いのついた頭は冷静になっていて、サーと青ざめていく。
「ご、ごめんなさい」
「……」
返事がなくて顔を覗き込むが、片手で顔を覆っていてよく見えない。
…絶対、怒らせた。
私のわがままをぶつけて、困らせて。
「…あの」
「夏希ちゃん、この後空いてる?」
もう一度、謝ろうとするとそんな声が聞こえた。
うわずりながら「はい」とこたえると、手首を掴まれ立たされ引っ張られる。
「…へ」
紙袋は如月さんが持ち、どんどん歩いていってしまう。
歩くスピードが早くて、自分の足に引っかかりつつ早足でついて行く。
「車、どっち?」
「ひ、左の道沿いに」
なんだか分からないうちに車まで連れてこられた。
お兄ちゃんが気づいたみたいで、窓を開ける。
「おう、遥人どした?」
「はい、これ」
そう言って紙袋をお兄ちゃんにわたす如月さん。
「は?いや、それ夏希のだし」
「知ってる。夏希ちゃんとおれまだ話しあるから先帰ってて」
「え、如月さ…」
お兄ちゃんの返事も待たずに歩き始める。
「おい、遥人!ちゃんと夏希返せよ!」
後ろからなんか叫んでいる声がしたけれど如月さんはガン無視。
そんな如月さんが怖くて、私は何も言えなかった。

