いつもより遅く学校を出て、夜ご飯の食材を買って如月さんの住むアパートに着いた時だった。



今日は早めに仕事終わるから、とメッセージが届いて少し嬉しくて。




階段を上り、一番奥の部屋を目指す。


が、何故か扉が開いていて話し声がする。


如月さんが帰ってきてるのかと首を傾げた。



何かあったのかと少し離れたところから覗き込む。




「……え、」




ちらりと足元に女性の赤いパンプスが見えて、嫌な予感がした。



足音をたてないように、そっと近付く。





「…っ!」



不意打ちだったと思う。


扉がギィと音を立てて閉まった。

その瞬間に目に入ったのは、




綺麗な女の人が如月さんの首に手を絡めて






キスしてるところだった。







「…っ…ぁ、の」



掠れた声だった。

どんな反応をすればいいのか分からなくて…。






「な、夏希ちゃん!?」



私に気付いて慌てて顔を離す如月さん。



「なに、この子」


女の人は邪魔が入ったと言いたそうに眉を寄せた。





「…ぇ、っと」



「ねぇ、誰この子?妹?」



如月さんの腕に胸を押し付けながら指さす女の人。



「妹じゃないから」


すぐ如月さんはやんわりと腕を振りほどいた。



でもさっきのキスしてる場面がずっと頭の中を回っていて何がどうなっているのか分からない。



「ふぅん?空気読めない子だねぇ」



「紗希、黙って」


「っ、」



いつもは聞かない如月さんの低い声にビクッと肩が揺れてしまう。



「…あの、夏希ちゃ…」


「っ、ごめんなさい」



如月さんのよびかけを遮り、買ってきたものを如月さんに無理矢理押し付ける。


「なつ…」


「ごめんなさい!」



何も聞きたくなくて、その場に居たくなくて踵を返して階段を駆け下りた。



後ろから名前を呼ばれた気がするけど、振り返るのが怖くて振り返らずに走った。