「どうして、花山さんはいつも無理をするの?」

花山さんを見つめる。花山さんの笑顔は、切ない表情に変わった。そして、リップクリームが塗られた唇が動く。

「相原くんは、いつもあたしの変化に気付くんだね。すごいよ。……あたしは、時間を無駄にはできないんだ」

花山さんは窓の外を見つめる。舞っていく雪。図書館には、僕ら以外誰もいない。沈黙は重くて暗い。

「あたし、ウェルナー症候群なの」

聞いたことのない言葉に、僕は「ウェルナー症候群?」と聞き返す。花山さんは切なげに笑った。こんな表情を見るのは初めてだ。いつも、花山さんは天真爛漫に笑っているのだから……。

「ドイツのお医者さんが見つけた病気だよ。常染色体に劣性遺伝する疾患で、歳を早く取ってしまう病気なの。治療法は今もなくて、患者の六割が日本人なんだって」

早老症、という言葉は昔読んだ小説の中で見たことがある。目の前にいる彼女がそうなのか。とても信じられなかった。でも、彼女の行動を見ていると信じるしかないような気がした。